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第30話
「…え、」
何がなんだか分からない由里。
「どうしました?」
義祖母に呼ばれて一人のナースが入ってくる。
「……」
義母はぐっと腕を持ち、由里に暴れるように促し睨みつける。
「っ」
訳が分からないが、言われたとおり抵抗をはじめる由里…
「あの子が、目を覚ましたと思ったら、急に暴れて、自分で傷つけてまたあんなに血が…なんてことを」
うろたえた様子で話す義祖母…
まったくのでたらめだが、由里はそんなことより間近にいる義母の存在が恐ろしくて、言われたとおり暴れる振りをする。
これ以上怒らせないために…
「あら!大変、北上くん落ち着いて、大丈夫よ」
ナースはすぐにコールを押して応援を呼ぶ…
駆け付けたナースが義母に代わり、由里を押さえ付ける。
その間にもう一人が左手首の処置にかかる。
「ぃた、嫌だっ…」
左手首の処置、切れた範囲が広いので麻酔なしだとかなり痛い…
じっとしていられなくて無意識でも抵抗していまう。
あらかた処置が終わって、ナースが義母たちへ話している。
「今夜は付き添われますか?」
「いえ、今日も家の都合で泊まれないんです」
申し訳そうに答える義母…
最初から泊まる気などないのに…
「そうですか、あまり良くないことですが、こちらの目が届かない間に、また自傷行為が瀕回にありましたら、危険ですので、ご家族様がおられない際は、両手を拘束させて頂くこともあると思います…ご了承ください」
「はい…あの状態では仕方ないと思います、ご迷惑をかけて申し訳ありません」
いい母を演じる義母だったが、思うとおりになって、内心は嬉しくて仕方がない義母だった。
義母たちは、由里を障害児として施設へ入所させようと考えていた。
邪魔な由里を都合のいい理由で追い出すために…
そんなことなど知るよしもない由里…
ただ義母を怒らせないよう、言われたとおりに従う。
幼いころより虐げられて生きて来た由里には…
抵抗するすべなどないのだった。
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