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第32話

「それは興味があります。場所は遠いですか?」 義母は待ってましたとばかりに医師の話しに乗る。 「いえ、そんなに遠くではないですよ…宜しければこれを、案内になります、必要でしたら紹介状も書きます」 「はい、ありがとうございます」 こうして由里は退院と同時に障害者施設へと入所することになった。 短期の契約だが…義母たちはこのまま追い出したいと思っていたのだった。 しかし、義母たちの計画にはひとつ問題があった… 由里の実の父、典之の存在… 現在は出稼ぎに出ているため定期的に由里へ電話をかけてくる父… しかし、今は由里が入院中のため電話をとりつぐことが出来ない。 何度か誤魔化したが… もう誤魔化しきれそうにない… 仕方なく義母と義祖母は上手い説明の仕方を練って話すことにする。 そして父典之からの電話… 『ヨシヤスに代わってくれないか?今日はいるんだろ?』 「あなた、落ち着いて聞いて…」 『なんだ?』 伺うように聞く典之。 「あの子は、ちょっと前に入院していたの…」 静かに話はじめる。 『な、なんだって?なぜ?事故か?具合は?元気なのか?』 当然心配する父… 「怪我は…もう大分いいの、安心して」 『……なぜ早く知らせなかった?』 「それは、知らせ辛かったから…」 溜め込んだように言う義母… 『え?』 「あの子、自分で手首を切りつけて…自殺しようとしたの…」 『なっ…なぜだ?』 「あなたには心配させないように黙っていたけれど…あの子、自傷する癖があったの、興奮すると物に突っ込んでいったり手を噛んだり引っ掻いたり…今回のはそれがエスカレートしたんだって、医師が…」 典之を納得させるために、さも本当のように嘘を話す義母… 『そ、れは…』 「あなたもあの子が怪我しやすいのを知ってるでしょう?」 『あぁ…』 いつも傷だらけな由里… 「あの子…脳に障害があるって、先生に言われたわ…」 義母はわざと医師から言われたことにして典之を信じさせようとする。 『そんな馬鹿な…』 急にそんなことを言われ、驚きを隠せない典之…

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