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第36話
問題になっては困るため、勝手には許可できない…と、難色を示す職員…
「免許証でいいならあります、あと、妻に連絡してもらってもかまいません、うちに連れて帰ります」
「お父さん…」
それを聞いて、ここから帰れる嬉しさと安心感で涙が出る由里。
「そうですか…ではお待ち下さい」
職員は義母へと連絡し、話しをする。
そして外泊の許可をとり、車でしばらくドライブする…父と子。
「ヨシヤス…落ち着いたか?」
泣いていた由里に優しく声をかける。
「うん…」
こくんと頷く由里。
「すまなかったな、つらい思いをさせた…」
「…ううん、父さんが来てくれて良かった」
やや俯いたまま首を振る。
「ヨシヤス…お前、どうして手首なんか切ったんだ?覚えているか?」
父は気になっていることを聞く…
由里の細い手首にはまだ包帯が巻いてある。
「……うん、ごめんなさい」
また俯く由里…
「……俺はお前が障害児だなんて思えない、お前は賢い子だ…そんなことをしたのには何か理由があったんだろう?なぜ、自分を傷つけるようなことをしたんだ?」
真剣に問う父…
「……死んだら…本当の、お母さんに会えるかと…思って…」
心に押し隠していた気持ちをぽつりと伝える由里。
「…お前には義母さんがいるだろう?」
そっと聞く父…
由里に寂しい思いをさせないように、母親のいない子にしないように…再婚したのだから…
「……ごめんなさい」
謝るしかできない由里。
「…本当は、義母さんとうまくいっていないのか?」
義母たちの虐待など知らない父はそうたずねるが…
「……」
無言で首を振る。
「本当のことを言っていいんだぞ?」
何か溜め込んでいるような由里を見て父は心配して聞くが…
「……義母さんは、……優しいよ、良くしてもらってる、大丈夫…うまくやってる」
暗示のように繰り返す。
父をこれ以上困らせたくないから…
義母や義祖母の虐待の事実を隠す由里。
「…ヨシヤス」
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