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第49話
「肺炎になりかかっていますね…状態もよくないので点滴をしましょう。…それにしても、この手の傷、身体の傷はどうしたのかな?」
「…自分で」
本当のことを言ってはいけない…そう答える。
「これも?」
新しくついた手首の傷をさしていう。
「うん…」
「…うーん、それにしてはこの爪痕…子どものものとは明らかに違いますね…お父さんは心辺りがございますか?」
医師はあやしんで聞いてくる。
「……もしかしたら、いや、たぶんうちの妻たちがやったのではないかと、思うのですが…」
典之は確信したように言う。
「お父さん…」
父の言葉に驚く由里。
「ヨシヤス、もう嘘はつかなくていいんだ…お父さんには本当のことを教えてほしい…」
「……」
その言葉を聞いて揺らぐ心…
「ちょっと失礼…」
不意に先生は由里の頭の上に手を上げる。
すると由里は反射的に…ビクッと身体を縮ませる。
「ごめんね…、日頃から体罰を受けている子は、今のようにすると、叩かれると思って怯えるんです。キミも誰かに叩かれたりしているんだね?誰にかな?」
「……」
答えていいのか迷う。
「お父さんがいては言いづらいかな?」
先生がそう訪ねる。
「ううん…お義母さんと、お義祖母さんに…でも、ぼくも悪いから…いつも鈍くて…だから」
由里はようやく本当のことを話すが…まだ義母たちを庇う。
「…ヨシヤス、お前は悪くないんだ、気付かなかった父さんが悪かった…すまない、本当に…」
父は由里に頭を下げて謝る。
「お父さん…」
「では、手首の手当もしますね。それで…、こちらの相談所へ虐待の件は一報させていただきます。また、伺ってみてください…」
「はい、わかりました…」
由里の点滴中も、かた時も離れない父。
こんなに苦しんでいた息子を…少しでも安心させてやりたくて…
家へ帰る間、由里は安心しきって眠ってしまう。
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