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第4話

「アユム、一緒に……ベッドで寝ないのか?」 夕食と二度目のシャワーを終えて、特にやることも無いしさあ寝ようという時に俺がブランケットを手にしてソファに寝転ぼうとしたら、木之元が残念そうな声で言った。 当たり前だ。誰が男なんかと一緒に寝るか。 ……とは言えないので。 「俺はまだ怒ってるから」 ツン、とわざと拗ねた声で言った。 木之元の浮気が本当だろうと未遂だろうと俺には心底どうでもいいのだけれど、非常に便利な言い訳だと思う。 「明日にはベッドを買い替えるよ!そしたらまた、一緒に寝てくれるか?」 「保証はしない」 「アユム……どうしたら許してくれるんだ?俺は誓って浮気なんかしてないし、愛してるのはお前だけだ。それは信じてくれる?」 ああもう、面倒臭い。 アユムだったらどうするだろう。愛する男に裏切られて、そんなに簡単に許すだろうか? 許す……かもしれないけど。 「本当に浮気してなかったのか、可能性はゼロじゃないだろ。はっきりするまでヒロとは寝ないし、当然キスもセックスもお断りだ」 はっきりしてもお断りだが。 特に、キスは。 「アユム……」 木之元が俺に手を伸ばしかけたとき、空気を読んだかのように奴のスマホが鳴りだした。 「誰だよ……はぁ、また母さんか」 木之元は俺に目で謝りながら電話に出た。別にいちいち謝ってもらう必要はないけど。 「……うん。元気だよ。……だから、お見合いなんてしないって言ってるだろ!いい加減にしてくれよ!……いい人?いるけどまだ紹介したくない。こっちだって色々と準備があるんだよ。……は?俺はまだ40じゃない、39だ!……分かってる。もうこの話はお終い、月末には帰るから……うん。それじゃ」 ひどく困ったような、悲痛な顔をして、木之元は電話を終わらせた。 話の内容は大体把握した。要するに、木之元はまだ家族にカミングアウトしていない。そして結構いいトシだから結婚をせっつかれている、と。 「……ごめんなアユム、また母さんにお前のこと言えなかった」 「え?別にいいけど」 「ごめん……」 何故そんなに申し訳なさそうな顔をするんだろう。アユムは自分のことを木之元の家族に紹介してもらいたがっていたのか? いや、それはないか。俺がアユムだったら嫌だ。嫌というか、そっとしておいて欲しい。 「……今日は俺もここで寝る」 「は?いや、ヒロはベッドで寝ろよ」 「嫌だ。起きた時にまたアユムが居なくなっているかもしれないだろ」 「……………」 この執着っぷりは、さすがに呆れるな……。 「アユムはいつも何も言わないけどさ、本当はいつまでもカミングアウトできない俺のことを年上の癖に情けないと思ってるんだろ?家族にも友人にも同僚にもアユムのことを言えない俺を、本当は軽蔑しているんだ」 軽蔑? 「別に……呆れてはいるけど、軽蔑なんてしてないぞ。男が恋人なんて簡単に人に言えなくて当然だろ。それにヒロは会社ではそこそこ偉い人?なんだし」 確か名刺には部長と書いてあった。平社員ならともかく、部長クラスの人間の性的なアレコレが噂にでもなったら、色々面倒なことがあるだろう。 しかし……どうして俺はこの男を慰めているんだろうか。 『アユム』ならともかく、俺にとってこいつはどうでもいい存在のはずなのに。 分からないけど、この男が悲しい顔をしていたら胸の辺りがザワつくような気がして……。 「アユム、今夜はやっぱり一緒に寝よう」 「うわ、どさくさに紛れて触るんじゃねーよ!」 結局俺はソファで、木之元はその足元のラグに寝ようとしたけど俺が拒否し、木之元はアユに嫌われたくないからと言って大人しく寝室に寝に行ったのだった。

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