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第5話
俺が木之元の家に住み始めて一週間ほど経ったが、驚くほど順調に日々は過ぎていった。
木之元は俺に対して多少は違和感を抱いているのかもしれないが、俺が本当のアユムじゃないことにはちっとも気付いていない。
俺も相変わらず自分がどこの誰なのかまったく思い出せないけど、無理に思い出すことはないとのんびり構えていた。
が、そうもいかなくなってきた。
「……耐えられない」
「は?」
「我慢できないんだ、アユム」
「何が?」
「お前を抱きたい、キスがしたい!頼むからもう俺を許してくれ」
ある夜、興奮した木之元がソファに寝ようとした俺にいきなり襲い掛かって来たのだ。
「ちょっと待て!やめろ!」
「アユム、どうして嫌がるんだ!?」
「俺はまだ許してないって言っただろ。許して欲しいなら我慢して、誠意を見せろよ!」
「っ……」
俺の言葉は効果絶大だったらしく、木之元は大人しくなった。
ああ、今のは本気でヤバかった。いくら俺の方が若くても、ガタイの差があるから抑え込まれたら抵抗は難しい。
「分かった……じゃあ、せめて触れさせてくれないか?アユムが足りなくて死にそうなんだ」
「大袈裟な奴だな」
「大袈裟なもんか!なあアユム、気持ちよくしてやるから……少しだけ、な?」
「おい!」
誠意を見せろと言ったばかりなのに、奴は懲りずに俺の上にのしかかってきた。
しまった、さっき逃げておくんだった――と思ってももう遅い。
「やめろって!」
「一週間もシてないんだから、アユムだってそろそろ俺が欲しいだろ?」
「欲しくねぇよ!」
「最後まではしないよ、触るだけ、少し触るだけだから」
「っ……」
するりとスウェットの中に手を入れられて、乳首をキュッと摘まれた。その感触があまりにも気持ちよくて、俺はつい息を飲んだ。
童貞ではないと思っていたが、誰かとセックスをした記憶なんて残っていないのに……俺は乳首責めに弱かったのか。
いや、俺じゃなくて『アユム』が?
「はぁっ……あ、んっ」
「アユム、気持ちいいか?ここ、好きだもんな。腰も揺れてて可愛い」
「やっ、言うな……あっ、ぁぁっ」
耳に息を吹き込むように囁かれて、嫌でも身体が反応してしまう。いつの間にか下着の中に手を入れられて、直接ソレを刺激されるとひどい快楽が俺を襲った。
そういえばここに来て一度も自慰をしていなかったから、溜まっていたらしい。
「や、そこ触るなっ……あ、ああ!」
「アユム、アユムッ」
木之元は俺の背中にのしかかり、鼻息荒く全身を触りまくっている。奴の手つきが気持ちよすぎて、俺の抵抗はもはや言葉だけだった。
しかし、尻の割れ目にゴリッと奴の性器を押し付けられたとき、急に覚醒した。
「いやだ、挿れるな!」
「挿れないから……ここで擦らせてくれ」
「え、――あっ!?」
木之元が仕掛けてきたのは素股だった。こんなこと、シたこともサレたこともないはずなのに――何故か俺には覚えがあって、身体は素直に反応していた。
「ひっ……!あ、ああっ!」
「アユム、好きだ、好きだ……!どこにも行かないでくれ、ずっと一緒にいてくれ……っ!」
「あ、あ、……っ」
「愛してるんだ……!!」
どんなに激しく愛を囁かれても、
どんなに切なく懇願されても、
俺は本物のアユムじゃないから、
その想いは全部無駄なのに。
本物のアユムに伝えてやりたい……。
どうしてお前、こんなに愛されてるのにこいつの元からいなくなっちまったんだ。
「あ、ああっ……!!」
達したあと、思わずキスされそうになったから俺は必死に顔を背けた。
何故かは分からないけど、他にどんなことをしてもキスだけはしたらいけない。
そんな考えに支配されていた。
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