6 / 7
第6話
それから、更に一週間が過ぎた。
一度ヤッてしまえば同じ……という訳では無いが、そもそも最後まではしてないし。
でも奴がどうしてもというので、俺は2日おきのペースで奴に身体を触らせてやった。
一応衣食住すべてタダで世話になっていることだし、それに……気持ちいいから。
けど、キスはしていない。
どうしてこんなにキスを拒んでしまうのか理由は分からないけど、きっと生理的に無理なんだろうと思っている。
言ったらまたうっとおしいことになるだろうから、言わないけど。
木之元は俺の――アユムの身体を知り尽くしていて、挿入には至らないが、ありとあらゆる愛撫をこれでもかと仕掛けてきた。
言葉もくれるが、言葉がなくとも『愛してる』と全身で伝えてくる。
俺がその愛情に応えることはないのだけど、別段嫌な気はしないから不思議だ。
俺は本物のアユムじゃないのに――。
でもそう、俺は本物のアユムじゃない以上、そろそろ身の振り方を真面目に考えなければいけない。
記憶が戻らないのは困るけど、この容姿があればきっと何らかの仕事にありつけるはずだ。
いつまでも俺がいるから、木之元だってアユムに執着して身動きが取れないんだろう。
いっそ、居なくなってしまえば――……
「……アユム」
玄関が開く音がして、ふと目を向けたら木之元が仕事から帰ってきていた。
「あれ?お帰り。今日は早いんだな」
もうそんな時間か。やばい、晩飯まだ作ってなかった。
俺が買い物に行こうと立ちあがると、木之元が近くに来て俺の両肩を掴んだ。
「アユム」
「何だよ?俺は今から買い物に……」
「お前が仕組んだのか?」
「は?」
仕組んだって何。なんのことだ?
「俺の浮気……未遂を仕組んだのは、お前だったのか?」
何言ってんだこいつ。
急いで否定しようとしたけど、俺にはそれを否定するだけの材料がなかった。
え?『アユム』が仕組んだ……って?
「帰り際、あの女が話しかけてきたんだ。俺とアユムが近所歩いてるのを見かけたから、仲直りしたんならもうバラしても大丈夫ですよねって。……お前、あの女に金を渡して、酒に小細工して俺を眠らせて、浮気の現場みたくなるように工作したんだってな」
「……!」
マジか。
アユム、おまえ何考えてんだ?
「どうしてそんなことしたんだ?理由を教えろ!アユムは俺を、俺のことを愛してないのか?」
「俺、は……」
俺は、アユムじゃないから
「俺のことが嫌いであんなことをしたのか?なあ、いったい何を考えてるんだよ、アユムの考えを俺に教えてくれよ!」
こいつの考えてることなんか、わかんねぇよ
「どうして何も言ってくれないんだ。天涯孤独のお前は、もう頼れるのは俺しかいないって、死ぬときは俺の腕の中がいいって、幸せそうに言ってくれたじゃないか!」
アユム、アユムは……
「ずっと俺と一緒にいたいって言ってくれたのは嘘だったのか?」
呆然として動けない俺に、木之元が縋り付いてきた。
「なぁ答えてくれよ、アユム……!」
避ける暇もなく、奴は俺にキスをした。
ともだちにシェアしよう!