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第3話

 シャワーを浴びながら、俺は歓喜の溜め息を吐いた。 「はぁ~、どうしよう。俺、あんな美人と…?」  これから自分が美香にしてもらう行為を想像して、恥ずかしくなって顔を手で覆った。  プロのお姉さんくらいしか相手にして貰ったことのない俺が、まさかあんな美女とタダでデキるなんて。  美香には悪いが、馨はもう別れるつもりだと言っていた。俺はその言葉が現実になることを確信している。だからバレたところで、そんなに怒られることはないだろう。と、頭の悪い俺はこの時、信じられないくらい楽観的に状況を捉えていた。  バスルームの外から、酷い音を聞くまでは。  シャワーを浴び終えて、躰をタオルで拭いていたその時。外でなにか鈍い、だけども大きな音が響いた。 「え…? なに…?」  部屋には先にシャワーを浴びた美香が待っているだけのはず。だとしたら今の音は何だ? もしかして、何かに足を取られて転んだのか? もしそうなら、打ちどころが悪くちゃ大変だ。  腰にタオルを巻いて慌てて外に出る。駆け足でリビングに戻ると、そこには全く想像していなかった人物が立っていた。  寝室の入口に、馨がいる。 「馨!?」  こちらに背を向けた馨は、振り向かない。その足元に、躰にタオルを巻いただけの美香が蹲って泣いていた。そんな彼女に、馨が容赦なく足を打ち込む。 「馨っ!!」  慌てて走り出し、馨にしがみついた。 「やめろっ、やりすぎだ!」  そんな俺を、馨が冷たい目で見下ろした。  多分俺は、どこかで過信していたんだ。俺だけは絶対、殴られたりしないって。だけど馨は俺を凄い力で引き剥がし、左手の甲を思い切り叩きつけた。それは頬にぶち当たって、その勢いで美香の隣まで吹っ飛んだ。  腰に巻いていたはずのタオルは、馨の足元に落ちていた。それを踏みつけて、馨が目の前にしゃがみこむ。覗き込まれた俺の顔は鼻血にまみれていた。 「お前にはガッカリだ、裕典」 「かおる…ちがっ、」 「何が違う? まだヤってないから? 未遂だったら、なに?」  俺を見据える、軽蔑を滲ませた視線に目頭が熱くなった。  昔から何をしたって、何百万と金をタカったって怒らなかった馨をこんなにも怒らせるなんて。馬鹿なことをした。何をしたって許されるって、そんな風に思って。  別れるつもりなんだから、いいだろって。どうせまた次ができるんだからって、そう思って。俺は大事な大事な友達の女に手を出そうとしたんだ。 「かおる…かおる…ごめっ、俺…」 「お前は俺を煽るのが上手いねぇ」 「……え? 痛っ!」  馨が俺の頭を加減なく掴んだ。まるで、バスケットボールでも掴むみたいに。  場違いなほど爽やかに、艶やかに、にっこりと微笑む。 「今まで俺が、どれだけ我慢してきたか…お前には想像もできんだろう」 「か、かおる…?」 「俺はずっと、お前に酷いことがしたくて堪らなかった。その気持ちを抑えるのに必死だった。俺の知らない、見えないところで遊んでてくれりゃ良かったものを…結局、俺のタガを外すのはお前自身なんだな」  ――恨むなら、己の不出来さを恨めよ?  恍惚とした表情を浮かべ、自分の腰から革のベルトを引き抜いた。 「やっ、やだ! ムチはヤダ!!」  思わず躰が逃げを打つ。美香がとか、女がとか。そんなことは置かれた恐怖を前にすればどうでもよくて。ただ馨から逃れることだけが頭の中を占めていた。  全裸で這いつくばって逃げようとすると、その足を掴まれ簡単に引きずり戻される。  後ろからもう一度髪の毛ごと頭を掴まれ、悲鳴をあげている間に腕はベルトで背中に一括りにされていた。 「なにすんだ! やだ、いやだッ!」 「俺もな、このままのびのびと育ててやるつもりだったんだ。だけど仕方ないだろう? お前が救いようのない馬鹿なんだから」  馨が鼻血にまみれた俺の顔を舐め上げた。 「あっ!? なっ、なに!?」  自由にならない躰は膝立ちでベッドに向き合わされ、やがてそこへ頭を押さえつけられた。丸出しの尻を馨に突き出す形で突っ伏す。恐怖に見開かれた俺の目は、こちらを凝視する美香の視線とぶつかった。 「みっ、美香ちんっ! 助けてっ、助けてッ!」  暴力をふるわれてきた美香のことだ、俺を助けてくれるに違いない。そう思って叫んだのに、美香はハッとしたように気を戻すと、急いで服を身に付け走って部屋から出て行ってしまった。  そうして逃げる美香を気にもせず、馨が俺の尻を大きな手で思い切りひっぱたいた。 「ひぃぃいいっ!」  柔らかい肌に当たってベチンといい音を立てた。だけど打たれた俺にはそんなこと考えてる余裕もなければそんな場合でもなくて、一瞬燃えるように熱くなって、後からビリビリと痺れるような痛みに襲われる。 「痛いぃぃ~がおる~っ、ゆるじでぇ~! ひっぎゃっ!!」  泣いて謝る俺を無視して、馨は二回、三回と軽快に回数を重ねて俺の尻を打った。何度叩かれたのか数えきれなくなった最後の一発をくらった時には、最早熱いのか痛いのかさえ分からなくなっていた。  俺はベッドに顔を埋めて泣き続ける。腕のベルトは外されたけど、尻は風が当たるだけでもジクジクと痛んで下ろせなかった。だからそこは、膝立ちで馨に突き出したままだ。 「裕典、反省してるか?」 「うっ、うぅ…じでる…ごめっ、なさ…うっ、」  馨は大げさに溜め息を吐いた。 「どんな動物も、ただ甘やかすだけじゃダメなんだな」 「え…?」  意味がわからなくて、思わず振り返る。 「でも、お仕置きしたあとはちゃんと、耐えたご褒美をやらないとな」 「ひっ!?」  言うが早いか、馨はにっこりと笑いながら俺の尻に何か冷たい液体をぶっ掛けた。  窄まりに直撃してから太ももを伝って落ちてくるそれが何なのか、一瞬おいて理解した。理解して……躰が硬直する。 「なっ、なに…かおっ、」 「お前の飼い方を変えるよ。裕典は躰で覚えるタイプみたいだから」  尻の中に入ってくる異物に、俺は叫ぶ余裕もなかった。

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