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第3話
うっとりと目を閉じていた暁の顔が、徐々に歪んでくる。高杉は一点を見据えたまま。
ついに暁が唇を離した。先程よりも大量の血が、紅い糸となって二人の唇をまだ繋いでいた。
「何かされるとは思ったけどさーっ、せめて唇にして下さいよっ‼」
暁が図に乗って舌を高杉の口内に差し入れたのが運の尽き。ガリッという音を伴って暁の舌は噛まれたのだった。
忌々しげに口内の血を吐き捨て、高杉はまじまじと暁を見つめた。
「お前、イカれてるんじゃない?」
当の暁は鼻で笑って返した。
「それを言うならお互い様でしょ。貴方は俺を傷つけて楽しんでる」
ふうと呆れる高杉。
「楽しんでる?馬鹿馬鹿しい。迷惑に過ぎない。みっともないと思わないのか?自分よりも年下の奴にボロ雑巾並みに扱われて…」
年下という事実を知らなかった暁は内心少しショックだったが、めげずに反論した。
「年上とか年下とか関係ないです!どうしてそこまで俺のこと忌み嫌うんですか?」
いつのまにやら食事を終えた高杉が食器を持って席を立った。
「どうしてとかそういう次元の問題じゃないね。人の言いなりになって媚び諂う様は無様としか言いようがない」
そこまで聞くと、暁は高杉の腕を強引に引いた。油断していたため高杉の身体はゆらりとバランスを崩し、暁めがけて倒れ込んだ。
「それって…強引になれってこと?」
「笑わせ、んっ」
懲りずに2度目のキス。
そしてその直後には暁の手の甲にフォークが刺さっていた。
またも手から血を流しながら、まるで気づいていないかのようにくちづけを楽しむ暁。
「いいよ、もっと酷いことしても。俺貴方になら何されても。愛してるから、伊織さんのこと」
そこまで言った途端、暁は宙を舞い、壁に打ちつけられた。
「帰れ!」
「い、いお」
「気安く名前で呼ぶな!帰れ‼」
暴挙の限りを尽くしたチャレンジャーは、ついに部屋から追い出された。
結局そんなことがあったせいで高杉の仕事は一向に進まず、持ち帰った仕事をそのまままた会社へ持っていく羽目になる。
当然翌朝もいつものように暁がお出迎え。
めげずに元気良く挨拶するが、当然のことながら無視。
しかしいつもと様子が違う…?暁はそんな気がした。
「どうしたんです、具合悪いんですか、伊織さ」
「名前で呼ぶなって言ってるでしょう。それと疲れてるんですよ、貴方のせいで」
いつもの皮肉なのだが、今日は何処となく弱々しく、覇気がない。
消え入りそうに儚げな高杉に、暁は生唾を飲んだ。
指を咥えて見送った少し後、店員らが声を上げた。
「きゃあ、店長⁈」
高杉が倒れた。
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