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第4話
「大丈夫ですか?」
自分が汗まみれであることに気づく。
「すっげーうなされてましたけど…」
傍らの暁に言われて、よくよく今の状況を考えてみる。
「何で二人とも裸なんだ⁈」
言うが早いか、暁をベッドから突き落とした。
「何もしてませんよ。あっためてただけですから」
「疲れてるんだからもう帰れ」
「嫌です!看病するんだから」
「いい加減に…」
そこまで言い合いが続いて、暁は高杉を抱きしめた。
「こんな状態の伊織さん、ほっとけません」
高杉は暁に抱き竦められたまま、歯痒そうに言った。
「なんで…?どうしてお前はヒトが必死で築いた壁を勝手に蹴破って、心の中に土足で…」
「…すみません。好きだからしょうがないです。俺伊織さんのためならなんでもしますから、一つだけ頼み聞いて…俺のものに」
「ならない」
それまでおとなしく抱かれていた伊織が突然暁の首を締めた。
「相手が病人だからって調子に乗るなよ」
暁を引き離し、まだ冴えない顔色のまま肩で息をする高杉。
「今日は帰ります。病状悪化しそうだし。体調悪い時に無理やりゲットしてもフェアじゃないですからね」
しれっと言い放ち、暁は帰っていった。
ガツ、ガツ、ガツと破壊音が響き渡る。
数日後の夜のこと。
あれからも暁は毎日毎日高杉へのストーキング行為を継続していた。
「何してんですかっ?」
慌てて暁がキッチンの様子をうかがうと、高杉がアイスピックで氷を砕いていた。
「あー、一杯やるんですねぃ♪俺も付き合いたいなぁっ」
鬱陶しそうに無視していた高杉だったが、
「伊織さん?」
暁が不審に思って高杉を見続けていると、ものすごい速さでアイスピックを持った右手を振りかぶり、暁の鼻先数ミリのところで止めた。
「わっ‼」
思わず後ずさりしたものの、高杉の様子は尚もおかしい。
アイスピックを鼻先に付きつけたままの状態で俯いている。
全身が震えているようにも見える。
「どうしたんですか?どこか具合でも…」
「―――帰ってくれ」
押し殺すような声。
ますます心配になる暁だったが、次の言葉に凍りついた。
「そしてもう二度と顔を見せないでくれ」
何も言えず、ただ視界の中の高杉を見ているしかなかった。
「…頼むから」
左手で右手首を掴んで無理やり腕を下ろし、やっとアイスピックが鼻先から離れ、高杉はそのままその場へ座り込んでしまった。
震えは酷くなっている。泣いているようにも取れるが、俯いたままなのでわからない。
「ごめんなさい。俺、一人で最近いい感じかなとか勘違いして調子に乗って…ここまで嫌われてるなんてちっとも気づかなくて」
嫌われてる、と自分で口にすると、やるせなさが増す。身を裂かれるような思いを表情に出すまいと、平静を装う暁。
「今まで迷惑かけて本当すみませんでした。もう来ませんから…さよなら」
最初から結果は見えていた。
ずっと嫌われっぱなしだった。
暁は静流とはまったく正反対のタイプだ。
「あーあ!フラレちゃったーっ」
大声で叫びながら自室のベッドで寝返りを打った。
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