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第5話

 頭の奥から鈍い痛みが走る。 体が鉛のように重い。 冷え切った暗い部屋で、高杉は最悪の目覚めを迎えた。  衣服も昨夜のまま、傍らの小さなテーブルの上には飲みかけの酒が入ったグラス。  目を擦りながら鏡を覗くと、酷い顔の自分が映った。 最悪の気分に最悪の顔、最悪の体調で、高杉は今日も出勤する。 「社長。何のご用でしょうか」  その日は社長、つまり彼の父親から本社に呼ばれている日だった。  息子のかしこまった事務的な物言いに苦笑して、社長はソファを勧めた。 「今日は店長として呼んだのではないよ、伊織」  自身もリラックスしようと、煙草を一本取り出す。そして一つ大きく息を吸って話を切り出した。 「先日家に招待した取引先の娘さん、えらくお前を気に入ってな。あそこと繋がればウチも…」 「つまり息子を身売りに出す、と」  言いたいことは分かった、とでも言いたげに、伊織が冷たく口を挟む。父親は困ったように弁解する。 「おいおい。人聞きの悪い言い方はよしてくれ。これは父親から息子への話だよ。お前ももういい歳だ、そろそろ身を固めることも」 「構いませんよ」  無表情に伊織は言った。 「それなりに表面上は相手を愛し、端から見れば文句なしの幸せな家庭だって築きましょう。ただし何度かお話していますが、僕は女性には興味ありません」

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