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第6話

 あっという間、時間は積もり半年後。 「白石くーん。シャンプーお願い」 「はいッ」  暁は派遣された美容院でバリバリ働き出していた。活気がある店で新店舗も誕生、独立のチャンスもある乗りに乗っている企業だ。 「今日は黒岩様がお見えになられるから、特に気を引き締めてね」  チーフが全員に発破をかける。 「黒岩さんて?」  その辺にいるスタッフに尋ねてみると、 「あの黒岩繊維の社長令嬢だよ!」 「さ、いらっしゃったわよ!みんなお出迎えして!」  首根っこを捕まえられて店の前まで行くと、小柄な一人の女性が車から降り立った。 「皆さん、今日もお世話になります」  美人、というより可愛らしい、清楚な女性だ。 特に化粧も服も決して派手ではないが、気品が漂っている。 「今日は特別キレイにお願いねっ」  弾む声で言う小百合に、何かあるのかと問うチーフ。言いたくて仕方がなかったように、小百合は答える。 「実は…婚約パーティなんです」  黒岩小百合、若く見えるが三十五歳。 この容姿、家柄、人柄で、周りが放っておくはずがない。両親からも何度も縁談の話を持ちかけられた。 しかし彼女はそれら全てを断ってきた。それは何故なのかは知らないが、そんな小百合が決意を固めたお相手とは? 「私の一目惚れなんです」 「んまぁ、そうなんですか!お相手、どんな方か伺ってよろしいですか?」  実は小百合も話したそうである。 「とても落ちついていて、優しい方です。私の方が年上だとはとても思えませんもの」  スタッフ達は混乱の極み。我らのアイドルを独占され、しかも逆タマ、おまけに年下。色んな意味で一度拝んでみたいと誰もが思った。  暁はそんなスタッフ達を尻目に、屋上に干したタオルを取りに上がった。  ついでに一服やって、タオルを取り込み店に戻ると何やら先程とは違った騒々しさ。 「そぉなんですか?そりゃ小百合さんが惚れるわけですね!」  さっきとは打って変わった、女の黄色い声が店のテンションを高めていた。  相手が来ているのだな、と暁は思った。知り合ったきっかけだの式はいつ頃だのくだらない質問を女性スタッフ達は浴びせていた。  次の瞬間、持っていた洗いたてのタオルを全部、髪の毛だらけの床に落とす。 「それにしてもすごいことよね、『黒岩繊維』と『高杉』がくっつけばもう…」  気が遠くなりそうだ。 何がどうなっているのかわからない。  目の前にいる、 黒岩繊維の社長令嬢が一目惚れした、 今女性スタッフからキャーキャー騒がれている、 逆タマで年下の憎いヤツは、 確かにあの、 恋しくて恋しくてどうしようもない人だった。

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