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第7話
あの頃よりもまた少し痩せている。相変わらず顔色は悪い…。
「あんた、何やってんの、って…え…?」
タオルを落としたことに憤慨したチーフだったが、暁と高杉が両者見詰め合ったまま動かないことに双方を見比べた。
「え、あの…お知り合い?」
「—―ええ、知人の友人とかで何度か。ね?」
流石に高杉の方は咄嗟にうまく取り繕ったが、暁は動かない。険しい顔でじっと高杉を見据える。この場をどうにかしなければ、とチーフは思い、気を利かせた。
「小百合さんもまだまだお時間かかりますので、宜しければお二人でお話でも…」
「それはいい。どうです?お茶の一杯でも」
高杉が爽やかに笑って暁を促し、二人は近くの喫茶店に入った。
「こんな風にお会いするとは…美容師でいらしたんですね」
いつものブラックを片手に、高杉は表向け用スマイルを貼り付けている。依然、暁は不快丸出しと言った顔でだんまりを決め込んだまま。出てきたコーヒーにも口をつけない。流石の高杉も少し困った表情を浮かべた。
「どうしたんですか、どこか具合でも…」
言いかけた時、辛抱たまらんとばかりに暁が立ち上がり、口を開いた。
「気色悪いんだよ!前みたいに見下した喋り方すればいいだろうが」
店の中の人が皆、二人に注目している。
「見下したとは…」
「前みたいにもっと冷たくしてくれよ!」
暁の大声—―しかも内容が内容だけに—―で、店内はすっかりしんと静まり帰ってしまった。
「…表、出ましょう」
高杉に背中を押され、店を出るなり高杉の拳が暁の頬にめり込んだ。
「よくも恥をかかせてくれたな。せっかく感動の再会を味わわせてやったのに」
暁は殴られて倒れ込んだまま、高杉を見ずに言う。
「そのくらい困らせたっていいでしょう。自分がどんなに頑張っても振り向いてくれなかった人が、会社の為に結婚だなんて」
「お前の恨み辛みなど…」
顔を背ける高杉に、なおも続ける。
「俺、愛人で構いませんから。小百合さん、大事にしてあげて下さいね」
高杉は答えず、そして振り帰りもせずに暁の手を払い退けた。
また殴られるか、それとも蹴られるのか?とビクビクする暁が次に見たものは、今までに一度も見たことのないような、邪念なしの、高杉の笑みだった。
「お前なら、そう言うと思ってたよ」
その笑顔に、暁の全てが復活した。
殴られた顔の痛みも、あの日から癒されることのなかった心の傷も、結婚のショックも、そして、高杉への想いも。
やっぱり、諦めない。諦められない。
店に戻ると小百合の髪は出来上がっていて、高杉が連れて帰る。
連れ立って店を出る二人を、暁はほんの少し余裕をもって見送ることが出来た。
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