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第8話

 根本的に人を嫌う伊織に、パーティーは苦痛だった。 しかも、自分たちが主人公のパーティー、後から後から人が寄ってくるのは当たり前で。  一旦小百合とともに社に戻り、それから一人で自宅に戻る。 「伊織さん」  疲れて俯き加減で歩いていた高杉は、その声にはっと顔を上げた。 そこには、前のようにドアに傍らに座り込んでいる暁の姿があった。 「お帰りなさい」 「…二度と来ないんじゃなかったのか。だいたい結婚前の男の部屋に…」  ぶつぶつ口の中で文句を言う高杉の背中をバンと押し、暁は部屋に入るのを促した。 「細かいことは気にしなさんな、いおりん♪」 「式はいつなんですか」  先程の『いおりん』発言で頭にこぶをつけた暁が煙草に火をつける。 「さぁな…6月にしたいとか言ってたが」  高杉も煙草を一本取り出し、咥える。同時に暁が火を差し出す。 「気が済んだらとっとと帰れ。本当にお前と言う奴は、一体何しに……」  いつものように憎まれ口を叩く高杉を、暁は優しく、壊れ物を包むように抱きしめた。 「伊織さん、愛してるよ…これからは愛する人を大事にして下さいね」  高杉は不思議と救われるような気持ちだった。暁の腕の中から離れようとする力は湧いてこなかった。 「お幸せに!じゃっ」  ぱっと体を離し、ニコっと会釈して出て行く暁を、高杉はぼんやりと見送った。  後にも先にも、暁が再度高杉の部屋を訪れたのはその一夜きりだった。 三月経っても、現れることはなかった。  そう言えば―――  ふと高杉は思った。 そう言えば俺は、あいつの名前も知らない。

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