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第9話

「どうかしら?」  髪が短くなった小百合が声を弾ませた。挙式を4ヶ月後に控え、小百合は現在妊娠2ヶ月。義理は果たした。 「似合ってますよ」  大して小百合の方を見もせずそう言い、店員に尋ねる。 「あの、ここで働いていた白石くんて…」 「ああ白石ですか。彼は先月辞めました」  辞めた—―? あの根性無しが。 何で辞めたんだろう、今は何をしているんだろう… 「お帰りなさいませ店長。速水様という方からお電話がありまして、もうすぐこちらに…」  店に戻り、店員からの報告を受けていると、早速本人が登場した。 「高杉さんっ」  速水静流とは、その昔体も売るホストをしており、高杉が贔屓にしていた。 静流には恋人がいるが、互いに客とホストという関係以上の感情を心のうちに秘めていた。  走ってきたのであろう、頬は上気して髪は風を受けて跳ね上がっている。 「ご結婚されるんですね、おめでとうございます!」  高杉は店員に応接室へコーヒーを持ってくるよう言うと、静流を奥へ通した。 「静流くん、走ってきました?髪、ボサボサですよ」  高杉は静流の髪を優しく撫でた。静流は赤くなって俯き、されるがままだ。 静流も応じるようにぴとっと体を預けてくるが、違う。  今必要なのは、今欲しいのは、この感触じゃない。  あの、解き放たれるような。 全ての苦しみから救われるような。 あの、ぬくもり。  部屋に戻っても、何もする気が起こらない。 この気持ちを自分で認めたくなかった。 認めたら、何かに負けてしまいそうな気がした。

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