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第10話

 大型家電店の前で、暁は立ち尽くしていた。 売り物のテレビでワイドショーが流れているのだが、その中に見知った顔が映っていた。右下のお決まりのスーパーには、『黒岩繊維+高杉の今後は?』と、大々的に書かれている。 『私が個人的にお話できることではありませんので』  TVの中で、あの人が喋っている。相変わらず、キレイだ。  暫く見とれていたが、我に返ると空しいものがあった。 つくづく未練がましい。  テレビから目を逸らし、結局キス止まりの仲だったなどとぼやきながら進行方向を向くと、今ブラウン管越しに再会したはずのその人が、真正面にいるではないか。  暁は咄嗟に踵を返し、走り出した。 もう、今更顔を合わせたくない。せっかく諦めようとしてたのに。  一方高杉は、逃げられると追うという動物の条件反射に則って、暁を追う。  何故、俺の顔を見て逃げるんだ? すんでのところで高杉が暁の腕をキャッチ、そのまま力一杯引っ張った。暁は後ろ向きに倒れ込む。 「なんで逃げる?」  ひっくり返った態勢をなおし、起き上がって暁は言う。 「顔見たくなかったんですよ、今更。諦めようとしてるのに、何で現れるんですか—―」  高杉はやけに小さく見える暁の背中を見ていた。 「俺、二人を祝福しようと思った、でも小百合さんが店にくるとやっぱりヤなんです。そんな自分にまた腹立って、んで店も辞めて」  暁は段々震えるような、聞き取れないほどのか弱い声になっていく。 肩も小刻みに震えている。 高杉はなおもその背中を見つめた。 「二人で幸せになるのに、俺なんかが周りうろうろしてたら迷惑でしょ、だから」  そこまで言った時、暁の両肩に重みが乗った。 「愛してやる。それが望みなんだろう。愛してやるから…」  両肩に乗った両手は首を巻き、次に肩には高杉の頭が乗った。 「だから、もう俺から離れるな」  不思議と、舞い上がるような感覚はなかった。 夢にまで見た、両思い。 だけど、何故かえらく冷静に受け止めている暁だった。 「…さんざん振りまわした上にこの結果ですか」  暁は姿勢と表情はそのままに、肩に回された高杉の手を取った。 「悔しいけど…嬉しいです」  そこでやっと暁は微笑んだ。

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