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逃避 2
菅井side
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今から1年前のこと。
「ただいまー。」
誰もいない部屋に俺の声は寂しく響く。
時計を見ると午前1時。
病院勤務をして7年、29歳の俺は若いわりに実力があると言われ、その期待を裏切らないためにも人の倍以上、仕事をこなしていた。そのため帰宅時間が遅くなるのはよくあることだった。
「ビール飲んで早く寝よ。」
風呂に入り、ビールを飲んだらアルコールの勢いですぐに寝る。
これが俺の日課だった。
しかしそれでも、寝付けない時がある。
〜〜〜、〜〜
〜っぁ〜〜、
…………
「ああ!!もう!うせっえ!!またかよ!」
勢いよく枕を壁に投げつける。
その壁の向こう側、つまり隣の部屋からはまだ微かに声が聞こえてくるのだ。
俺の寝付けない原因はこれだ。
「こんな夜中にいっつもうるせえな…。」
さすがにもう半年ほどはこれで悩まされている。
今日こそ文句でも言ってやろうか。
俺は迷わずスウェットのまま外にでた。
隣の扉の前に立ち、しばらく考える。
なんと言おうか考えながら、不意に表札に目をやる。
【佐伯 和】
「さえき か、ず…?」
そういや隣の部屋のやつの名前なんか気にかけてなかったし、会ったこともなかった。
携帯を見ると午前2時になろうとしている。はぁ、と溜息をついて、俺は迷わずインターホンを押した。
ピンポーン……
静けさの中に音が響き渡る。
だが、しばらく経っても返事はこず、もう1度鳴らそうと思ったその時、
ドンッ!
〜〜っ!
バタンッ!
─────っ!
急に騒がしく部屋の中から物音や声が聞こえた。
なんだ?喧嘩か?
今日はもう諦めようか暫く考えていると急にドアが開いた。
「うおっ!?」
勢いよく開いたドアから転げるようにして出て来た40代くらいの男が、驚いた俺に気づき形相をかえて、逃げていく。
「…………なんだ?」
一瞬の出来事に俺は呆然とする。
ゆっくりと振り返ると開いたままの扉。
恐る恐る中を覗くと、
「はっ!?」
1人暮らし用のマンションのため、玄関からそのまま部屋の中が見える。
そこには小柄な少年がぐったりした様子で倒れていた。
思わず俺は駆けよる。
「大丈夫か!?」
────!?
生臭いにおい
乱れたベッド
半裸の少年
手は縛られ身体には無数の傷がありかなり痩せ細っていた。
急いで俺は羽織っていた上着を少年にかぶせ、自分の部屋に運んだ。
「はぁ…」
家でできる範囲の治療を済ませ、ベッドに寝かせる。少年は意識を失ったままだ。あどけない顔を時折苦しそうに歪める。
中学生?高校生?その辺りだろうか。
身体中にある傷、拘束された後、逃げていった男。
「はぁぁぁぁぁ〜」
今度は頭を抱えてため息をする。
この少年はいったい何を抱えているのだろうか。俺は深くこの少年のことを知りたいと思った。
──
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