4 / 100
逃避 3
「菅井さん?」
「ん?ぁ、ああ」
「どうしました?」
菅井さんはにこっと笑った。
「和と出会った頃のこと思い出してた。」
僕も思い返す。
「菅井さんにはとても感謝してます。あの時、菅井さんがいなかったらって思うと…」
向かい合ったまま、菅井さんは僕を抱きしめた。
「最初はなかなか心開いてくれなくて、ってかむしろ、拒絶されてて…。」
「えと、それは、ごめんなさい。」
僕は思わず苦笑いをする。
「でも、今はこうやって俺といてくれて、本当に嬉しい。」
1年前、高校1年の時、僕は身売りをしていた。
客の中に厄介な人がいて、気に入らないことがあると、乱雑に暴力を振るわれたりしていた。けれど脅されてたから関係を拒むことが出来なかった。
そんな時、助けてくれたのが菅井さんで。
精神的に不安定になってたから、なかなか人を信じれずに、全員が敵に見えた。菅井さんもそのうちの1人だった。
それでも看病してくれたり、諦めずに話しかけてくれたりして、僕は徐々に心を開くようになったのだ。
「和」
菅井さんは真っ直ぐ僕を見据える。
「俺は和のことが好きだ。付き合って欲しい。」
僕は大きく目を見開いた。
菅井さんの真剣さに圧倒されて、ふと目を逸らしてしまう。
「あの、えっと、僕は…」
「和。」
菅井さんは離れようとする僕の肩を掴んで離さない。
「和、お願い、答えて?」
僕はこの時、少し弱気な菅井さんを初めてみた気がした。だから僕は相変わらず目を逸らしたまま答えてしまう。
「僕は…僕は、汚いから…。」
「和は汚くなんかない、そうやって自分を否定するなっ!」
僕を離すまいと抱きしめる菅井さん。
「やっ…!やだ!汚いっ、お、俺は、僕はっ!離してっ」
自分でも訳がわからなくなってきた。
僕を批判する声が聞こえてくるようで…。
「和、落ち着けっ、」
焦る菅井さんの声が遠くに聞こえ、そこで僕の意識は途切れた。
ともだちにシェアしよう!