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逃避 6

僕の少し気まずいその声に菅井さんは怪訝な顔をする。 「身売りか?」 先ほどとは打って変わって低いその声。……怒っている。 「ごめんなさい、」 絞り出した声は微かに震えていた。それを感じ取ってか、またすぐにいつもの優しい声に戻る。 「なぁ、和。…一緒に住まないか?」 突然のことに僕は驚いて目を見開いた。 「ええと、部屋隣ですよ…?」 「ああ、荷物とかそういうのは置いたままでいい、けど生活は俺の部屋でしろ。」 「菅井さんの邪魔になんないですかね…。」 「邪魔だったら告白なんてしない。」 僕の呟きに菅井さんはすぐにそう、きっぱりと言った。 「和の部屋の分の家賃も払う、ここで生活するから、光熱費、食費、俺が負担する。必要なものがあったら買ってやる。身売りする必要なくなるだろ?学費はお父さんが払ってくれてるんだろ?」 「はい、でも、」 「でも?」 「どうしても行きたい大学があって、そのために専門の塾に通ってて…。」 「それはお父さんには言ってないのか?」 「はい、自分が勝手に決めたことなので、そこまで迷惑かけるわけには…。」 そこまで言うと、菅井さんは大きなため息をつく。 「あのな、頑張ってる息子に向かって迷惑だなんて親が思うはずないだろ?逆にその事言わずに男相手に身体売って稼いでるほうがよっぽど心配するぞ?」 「………。」 「俺がその塾代も出してやる、だから身売りは絶対に辞めろ。」 「それは駄目です!塾代かなり高くて…。」 菅井さんは、焦る僕を再び抱きしめた。 「金に関しては気にするな、俺はこう見えても凄腕の医者なんだぞ。それでも気にするっていうなら、一緒に住んで俺のそばにいてくれ。それで十分すぎる。」 腕の中は温かった。僕の事を想ってくれている。その事がひしひしと伝わってきて、心がじんわりとする。 「ほんとにいいんですか?」 「ああ、絶対に身売り辞めろよ?」 「はい、心配かけてごめんなさい…。」 「ん…。」 安心したのか、菅井さんは僕の頭を撫でながらそのまま目を閉じて寝てしまった。

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