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予兆 4
「どうも、はじめまして。和くんかな?」
しばらくするとさっきの男が部屋に入ってきて、そう問いかけてくる。
「えっと…。」
なぜ僕の名前を知っているのだろうかと疑問に思っていると、菅井さんはこの男を気にすることなく、僕を足の間に座らせ後ろから抱きしめてくる。
「ちょっ、菅井さん…!」
「こいつは、島原陸斗、小学からの付き合いだ。全く気は合わねぇが。」
「島原さん…。」
軽く紹介され僕は島原さんに会釈する
それをみて島原さんは、にこりと笑う。
「ああ、陸斗でいいよ、浩くんは頑固だし暴力的だからさ、あんまり関わりたくないんだけど。医者で、俺は葬儀屋だからなかなか縁切れないんだよね、まあ、腐れ縁ってやつ?あ、犬猿の仲って言った方がいい?ねえ浩くん?」
「その呼び方やめろ、気色悪い。あと和も、こんなやつ名前で呼ばなくていいぞ。」
「自分がまだ‘‘菅井さん’’って呼ばれてるから、俺が和くんに名前で呼ばれるの嫌なんだね、嫉妬かな?まあ心配しなくていいよ、俺、浩の大事なもの奪う趣味は特にないから。」
後ろからすごく殺気が伝わってくる。
「…えっと、どうして僕のこと?」
できるだけ殺気を鎮めてもらおうと菅井さんの腕を握りながら聞く。
「あー、それはね、もう1年くらい前かな?からずっと浩が、和くんの話ばっかりで…それでね、」
「あぁ''〜、てめえはさっきから、べらべらと!それ以上言うなよ!」
振り向くと菅井さんは顔が真っ赤だった。そして、僕と目が合うとトーンを落とした。
「はぁ…陸と話してると苛々しかしねえ。」
「あははっ、照れちゃってぇ、こ、う、くん?」
「あ''?」
2人のやり取りを暫く見ていた僕。仲が悪いのに、お互い心を許している様なそんな見えない絆が見え隠れしていて…。少しだけもやもやする。
「…………浩…。」
「……!」
「へぇ、」
僕のぽつりと呟いた言葉に空気ががらりと変わる。
「浩、怒らないで?」
びっくりしている菅井さんにそのまま触れるだけのキスをした。僕だって菅井さんを下の名前で呼びたい…。
「??っ」
菅井さんはうつむいたまま動かない。様子を伺う様に顔を覗き込むと、そのまま急に抱きかかえられて。
「こ…う……?わっ!」
「陸、いいか?急ぎではないよな?」
「うん、全然。というか今日は仕事で来たわけじゃないから。こわ〜い浩くんをかえてくれた和くんがどんなもんか見学しにきただけ、まぁ予想以上に和くんの影響はすごいね、言い合いはじめたらいつも殴りかかろうとしてくるのにそれをひと言で止めるんだから、大したもんだよ、じゃあね、和くん、気失わないように頑張るんだよ~!」
パタンとドアが閉まる。
ほんとに嵐が過ぎ去ったみたいだ。部屋はしんと静まり返った。
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