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予兆 6

……… …………… ぼんやり天井を眺める。 同時に果てた2人はしばらく余韻に浸っていた。 「和、悪い、やりすぎたか?」 力が入らず、ぐったりしている僕を心配そうに見つめてくる。 実際かなり体力を消耗した。 「ん、へいき…。」 それでも笑ってみせる僕。そんな僕のおでこを浩は、ぱちんと軽く叩いた。 「う…。」 「相変わらず嘘つくの、下手だな。」 「えっ…?」 「和、嘘つくとき絶対、自分の左手首さする癖ある。」 そう言われ、とっさに右手を左手首から離す。 「ははっ、そんな急に離さなくても。もう少ししたら点滴するから、その前に体拭いてやる、和はゆっくり休んでろ。」 そう言って、ぽんぽんと頭を撫でられた。 「浩。」 立ち上がった浩は僕の声に振り向く。 「んー?」 「ありがとう。」 「ああ…。」 浩は照れ臭そうに笑った。 あれから、浩に体を拭いてもらい、今は点滴をされている。 結局、僕のつくったご飯を浩は僕にも食べさそうとしたが、吐いてしまい浩だけが食べている。 「そういや、和って普段全然ご飯食ってないのに、なんでこんなに料理うまいんだ?」 不意にそう聞かれた。 僕はほとんど、今されているような点滴、栄養剤、後は友達に無理やり食べさされるくらいしか、ご飯をたべない。 浩が不思議に思うのは当然だろう。 僕の料理の腕が上がったのは確実に身売りでだ。学校終わりに客と会い、そのまま行為をしては、寝て、次の日の朝に送り出す。それが基本だったが、より儲けるためにと、僕は客のために朝食を作るようになった。そうすることで、1度身体を交えた客のリピートがより一層増えた。 …そんなこと、浩に言えるわけがない。 「……センス、かな?」 そう言ってみる。 浩は左手首をさわる真似をしてきた。 「あっ……。」 またさすっていた。どうやら厄介な癖を持ってしまったらしい。 「言いたくない事なら言わなくてもいい、けど俺は和のこと、もっともっと知りたい。ゆっくりでいいから、和のこと教えてくれ。」 「僕も、浩のこと、もっともっと知りたいです。」 また敬語になってるぞといいながら、浩は僕のおでこにキスを落とした。 「あ、そうだ。」 「?」 「さっきみたいに仕事の関係で陸がよく家にくるけど、いいか?できるだけ和が学校に行ってる間に来させるようにはする。」 「ん、僕は大丈夫、気使わないで?」 「おう、ありがとな。」 「そういえば、陸斗さん葬儀屋なんだね。」 僕は陸斗さんを思い出す。上下灰色のスエットを着て、少し猫っ毛の癖毛は、寝癖を直してないような髪型にさせていた。なんというか、貧乏くさい印象だった。 「らしくないなって思っただろ?」 浩はにやっと笑う。 「葬儀屋ってもっとピシッとしてるイメージだったから。」 「そうだな、あいつは、式自体には参加しなくて裏の仕事だから、あんな格好してても支障はないんだろうけど。それでも四六時中あの格好はさすがに馬鹿だ。」 「……裏の仕事?」 「え、あー…、式の手続きとか、まあそういうことだ。」 歯切れ悪そうに答える浩。何かを隠すようなそんな感じだった。陸斗さんの少し変わった雰囲気、それでもって葬儀屋 なにか只者ではない予感がした。それは陸斗さんだけに限った話じゃない。 医者である浩は、かなり不定期に仕事に行く。また、様々な種類の薬や道具が大量に家にある。普通の病院勤務の医者が、いつも違う時間に出勤するものだろうか、医療用の特殊な薬や道具などを簡単に持ち出せるのだろうか。 そもそも、葬儀屋が、直接医者と関わる仕事があるのだろうか。その仕事も、浩の家でするものなのだろうか。浩と陸斗さん、この2人に何か秘密があるのでは。 僕はそう思った。

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