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開始 1 浩side

浩side 暫く他愛もない話をしてから、寝静まった和。寝顔はあどけなく、高校生といってもまだまだガキだと改めて思った。 しかし、和は普通の高校生とは違うものをたくさん抱え込んでる。 「今日もだめだったか…。」 新しい点滴に取り替えながら小さく呟く。結局この日も和は朝昼晩とまともな食事ができずに点滴での栄養摂取となった。 週に1度の診察や、一晩を共に過ごすことはあったものの、しっかりと1日一緒に過ごしたことは初めてで。思った以上に、出会った頃とあまり変わらず、自己管理できていない事がわかった。 手首に繋がる点滴針、小さな体、少し苦しそうな寝顔…。 自分がしっかりみていなければ、消えてしまいそうな、そんな気がした。 「へぇ、結局付き合ったんだ、遂に浩の恋が実ったんだね。」 陸に呼び出され、俺の住んでいるアパートから徒歩5分圏内にある陸の事務所にいる。事務所に着いて早々、和との詳細を聞かれ成り行きを説明した。 「てか、お前が俺をここに呼ぶなんて珍しいな。」 この事務所はほとんどの従業員が出入りできない離れのようなもので、陸専用の事務所となっていた。仕事上の機密情報の漏れを警戒してか、この俺でさえ今までにこの事務所を訪れたのは2度ほどしかない。 「だって知られたくないでしょ?」 「あ?」 「和くんの前で仕事の話したら、バレちゃうんじゃない?浩が闇医者ってこと。」 にやりと陸は口角をあげる。 「だからこれからは、仕事の話はここでしよう。ここなら俺の兄貴しかこない、ん?なに?不満ある?」 「いや…陸って意外と気使えるんだなと思って。」 「あははっ、失礼極まりないこと言うね?」 ケラケラと陸は笑う。 「それで、仕事のことなんだけど、今回の依頼はすぐに片付きそうだよ。」 俺に資料を渡しながら陸は言う。 「ターゲットは滝正史87歳、もう既に癌を患ってる。依頼者は滝正史の息子で、依頼理由は遺産みたいだね。」 ある程度の説明を聞き、それから資料を目に通す。俺がやってる仕事は、こういった依頼を受け、不自然にならないように、主に薬なんかで、ターゲットを殺すこと。陸はその後、証拠隠滅の為の後処理、つまりは葬儀を完璧に行う。依頼手続きも完璧にこなす陸とは、バディーとなるため、切っても切れない縁だ。互いにその技術は優れたもので、依頼はかなり高額で取り引きされていた。 「この爺さんは残り少ない人生にまだ希望があったかもしれないのにな、まさか自分の子にそれを奪われるなんて、思ってもみないだろうな。」 俺の言葉に、陸は呆れたように笑う。 「ほんと、やわらかくなったよね。人間味が湧いたっていうかさ、」 「何がだ?」 「浩がだよ。自分ではわからないかな?ちょっと前までは、ターゲットの気持ちなんて全く考えてなかったのに、というか、それ以前に興味すらなさそうだったよ。」 「殺すことしか考えてなかったな、」 「それがここまで、優しい人間に戻れるもんなんだね。まあ、これも和くんのおかげかな?」 「ああ、そうだな。」 和の前では絶対に吸わないタバコに火をつける。 「大事にしろよ?」 陸の口調が少し強くなったのは、俺の性格を知ってだろう。 「もちろんだ。」 吐いた煙は、すうっと開け放たれた窓の外へと出ていった。

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