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開始 4
朝礼では全員が自己紹介をした。その後、新入生のための入学式も終わり、あっという間に帰宅時間となった。その頃には、僕と開生の周りには自然と人が集まっている。
社交的な開生はクラスのムードメーカー的存在で、いつもクラスの中心にいた。中学の頃から、そんな開生のおかげか、必然的に僕もその輪の中にいた。
「和、帰るぞ、送ってく。」
「うん。」
「じゃあ、みんなまた明日な!」
「おう!」
「またね。」
「じゃあな~!」
みんなと別れを告げ、僕たちは教室を後にした。
「新しいクラス、楽しそうだな。」
帰りは行きと違い、開生は自転車を押し、ゆっくりと歩いて帰る。
「そうだね、開生のおかげかな。」
僕がそう言うと、開生は素直に照れる。そんなところがみんなから愛されるんだろうな…。
「ま、和のおかげでもあるな。」
「僕?え?どうして?」
僕は思ってもなかった言葉にすぐに聞き返した。
「んー、引きよせられる感じ、一目惚れ的な?みんながいっぱい寄ってくるから、俺がそいつらとも話せる。」
「なにそれ。」
「まぁ、和を狙ってる奴いっぱいいるだろうから気をつけろよ?気付いてないかもしんねえけど、和のファンクラブとかあるからな。」
「なわけ。」
僕がそういうと開生はからかうように笑った。
「あ、そうだ、それで詳しく聞かせてもらおうじゃないの、菅井さんとのこと。」
にやりと笑う開生に、僕は苦笑いを浮かべながら、ぽつりぽつりと経緯を話していくのだった。
「そっかそっか、付き合うことになったんだな。」
「うん。」
僕らは今はほとんど人がいない団地の屋上にきていた。座って空を眺めながら話をする。これがいつもの日課。
「和が幸せで何より。」
浩との事を聞いた開生は満足したように煙草の煙をゆっくりと吐き出す。
「あ、僕も。」
開生の煙草に手を伸ばすが、あっけなくその手は捕まえられる。
「禁煙するって決めたんじゃなかったのか?てか吸うとすぐに菅井さんにバレるだろうなー!」
「…う、」
「煙草吸うぐらいだったちゃんと飯食いなさい、じゃないと菅井さん、和のこと心配して抱いてくれなくなるぞ?」
「なっ…!」
明らかに浩との行為を知ったような口ぶり。開生は確かに勘が鋭かったりするけど…。
「なんでっ…。」
僕が聞こうとすると開生は首に手を置き、にやっと笑った。
慌てて携帯の画面で確認してみると、くっきりと首筋に数個の鬱血した痣が張り付いている。
全く気づかなかった…。
これが色んな人に見られてたと思うと段々と恥ずかしくなってくる。かぁっと頬が火照るのが自分でもわかった。
「皆にも気づかれてたかな、」
「ま、じっくり見ないと分かんねえよ?」
寒がりの僕は、春のこの時期はまだ学ランの下にフード付きのパーカーを着ていた。そのおかげでそれ程、首が露出されていなかったのが不幸中の幸いだ。
「なんでこんな見えるところに…。」
「確実に虫よけだろうな。」
愕然とする僕に同情するように開生はそう言った。
「さてと、帰るか。」
数本の煙草を吸い終わった開生は、立ち上がり、大きく伸びをする。
「和、後ろ乗ってくか?」
「うん、お願い。」
夕暮れ時、少し肌寒い風の中を自転車が切っていく。その風を避けるように、開生の背中にしがみついた。
家に帰ると鍵は開いていて、声でわかったのか中から浩がでてきた。
「おかえり、和。」
「ただいま。」
浩は僕を抱き寄せるとおでこにキスをする。
「ちょっと、早速イチャついちゃって、俺まだいるんですけど!」
呆れたような開生の声に浩がふっと笑う。
「開生、送ってくれたんだな、ありがとう。」
「いえいえ、それより菅井さん、聞きましたよ!付き合ってたんですね、いやぁ、幸せそうで何よりです、和をよろしくお願いします。」
まるで僕の親かのように開生はそう言った。浩もそれを見てくすりと笑い、ありがとな、と付け加えた。
「あ、浩、すぐ晩ご飯作るね。」
ふと視線を逸らすと空がだいぶ薄暗くなっていた。
「開生、食べていく?」
「そうだな開生、ちょっと上がってくか?」
僕の提案に浩も賛成する。
「お言葉に甘えてお邪魔したいとこだけど、家で晩ご飯が待ってるんで、また今度誘って下さい。」
「そう?じゃあ今度おいで。」
「是非。」
「開生、送ってくれてありがと。」
「ああ、また明日な。」
ひらひらと手を振る開生に、同じように手を振って、晩ご飯の準備のため、僕はゆっくりとドアを閉めた。
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