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変化 1 開生side
開生side
──パタン
目の前のドアが閉まる。ひとつ息を吐き出し、帰路に一歩踏み出したところでその足を止める。目線の先には、寝起きのような風貌の男。寝癖のような癖っ毛の髪に、上下灰色のスエット。こんなだが、塩系男子だとか言って学生時代はモテたそうだ。
「やぁ。」
目の前の男はいつものように軽い声を発した。
「陸斗さん…。」
「あれ、結構すごいよね?」
「…あれ?」
「浩と和くんだよ。」
「ああ、確かに、すごいですよね。」
先程の2人を思い出す。あの和が堂々と人前でキスしたことには正直少し驚いた。と言っても、朝のも、さっきのも、菅井さんからだけど…。
「あれは相当お互いのめり込んでるねぇ。」
「和にしちゃ、珍しいですね。相当菅井さんのこと好きなんでしょうね。」
「それはどうかなぁ?」
陸斗さんはくいっと口角を上げた。こんな顔をした時は大抵いい事を考えてない。
「どういう事ですか…。」
明らかに俺は怪訝な顔をした。
「あははっ、怖い顔しちゃって。」
陸斗さんはそれでも、俺の反応を楽しむかのように続ける。
「和くんは本当に心の底から浩のこと愛してるのかなぁと思って、ね?」
「俺にはそう見えますけど…。」
陸斗さんはなんだかんだで、鋭い人だ。洞察力にかなり長けている。
だから俺の胸は少しざわついた。
「陸斗さんはどう思ってるんですか、」
俺の質問が意外だったのか、驚いているように見えた。
「んー、そうだねぇ、浩の悪い癖が出ないと良いなって思ってるかな。」
「悪い癖…?」
「そう、悪い癖。まぁ、開生がいるし、その心配はしなくていいんじゃない?もしもの時は俺が知らせてあげるよ。あ、今日は開生に会うと思わなかったからさ、煙草持って来てないよ?」
その言葉と態度は、これ以上は教えないと言っている様だった。
「…ぁあ、いえ、それは構わないですけど…。」
「開生って、好青年って感じだから煙草とかそこまで似合わないね、どこでこんなの覚えたの?やっぱり友達?」
「ええ、和が吸ってたから…。」
「へぇ?ほんと?あんな可愛い子が?もっと似合わない。あ、でも最近はそういうギャップがいいらしいねぇ。」
まさに、そう。以前、中学の卒業式のあと打ち上げで行った店で突然、和が煙草を吸い始めた事がある。俺もかなり驚いたが、他のやつらの和へ向ける眼差しはどこか違っていた。あどけなさが残る顔だが、中学生にしては少し落ち着いている雰囲気。なぜか妙にマッチしていて、引き寄せられる様だったと、そこにいた多くのやつらが言っていた。
「ああ、でも菅井さんには内緒にしててください。今も和は禁煙中なので。」
「もちろん。じゃあいい事も聞けたし、あの2人の邪魔もできなさそうだし、帰るね~!じゃあね、開生、またね。
陸斗さんの背後を見送る。
「何しに来たんだ、あの人…。」
呟いた言葉はすぅっと薄暗い空に消えていった。
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