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虚風 3
「ちょっと力入れすぎたかな?」
ドクドクと血が流れる。痛さからか生理的にじんわりと目に涙が浮かんできた。
「痛い?」
そう言われて、枕に顔を沈めながらコクコクと頷く。
「そっか…でも俺が味わった痛みはこんなのじゃ済まない。悪い子にはしっかり教えないと、ね。」
グサッ
「ンーーーーーーーーッ!!」
「和、」
シュッ
「ぁあ''…、」
「言うことあるでしょ。」
ブチッ、ブチッ
「ん''あああっ…!」
グサッ
「ァァァアア''!」
「ほら早く。」
今は何画目だろうか。内田さんの手が一旦止まる。もう既に抵抗する力は全くなくて、ぼうっと窓の外を見つめた。恐怖心どころか、考える事も出来なくなってきて。無意識に彼の名前を呼んでしまう。
「こ、う………。」
「ふふっ…
フハハハハハハハハハハッ!アハッ!アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
狂気に満ちた笑い声。痛いくらいに脳に響いて、僕は目をぎゅっと瞑る。いっそのこと僕も狂ってしまいたい…。
「はぁ〜ああ残念、菅井浩、だっけ…?」
その名前に、僕の目は焦点を取り戻した。
「なっ、なにっ……いっ!」
できる範囲で振り返り内田さんを見た。しかし腰を捻じった衝撃でさらなる痛みが走る。
「あの男には消えてもらう、意味わかるよね?」
「…っ!お願いっ、浩には手を出さないで、下さい…っ。」
僕が懇願する間も、内田さんは腰の傷を指でなぞる。その度に僕の体はビクリと震えた。
「和が悪いんだよ?和のせいであの男は…。」
僕のせいで浩は殺されてしまう。僕のせいで…。内田さんが怒っているのも、僕が内田さんからのプロポーズを受け入れず、それどころか会うことさえ勝手に終わらせてしまったから。
すべては僕のせいだ。
そうだ、僕が好き勝手にやっているから。そのせいで浩は…。
だったら、
「…ッ、わ、かりました…。」
僕は目を瞑る。そして静かに呟いた。
「この間のプロポーズ、受け入れます。」
目を閉じているのに、一筋の涙が頬を伝った。
「ククッ…、物分りがいいね和は。一生俺のそばにいてくれるんだね?」
「……はい。」
その言葉を発した瞬間、なんだか全てがどうでも良くなった。
「約束だよ…?」
手は拘束されたまま、仰向けにされる
久々に合った目は、狂気の色を含んでいた。
「はい…。」
僕は、ぼんやりと内田さんからの誓いのキスを受け止めた。
「じゃ、やろっか?」
何も感じるな。何も考えるな。ただ、ただ、受け入れろ。
頭の中で誰かが僕にそう囁いた気がした。
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