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焦り 1 内田side

俺は久しぶりにとあるBARに来ていた。常連だった俺は懐かしい席に座り、煙草をふかす。ハッテン場と同じ通りにあるこのBARは専ら、出会いを求めるゲイや、身売り目的の少年たちが出入りをする所だ。かつては自身も、1人の少年をこの席でよく待っていた。その少年が今、自分の家のベッドの上で、鎖に繋がれ眠っていると思うと愛おしくてたまらない。 あの様子だと、壱は身体だけでなく心も堕ちていた。しかし、油断は禁物。仕上げをしないといけない。 このBARは裏で特殊な媚薬や玩具を売っており、今日はそれを手に入れに来たのだ。買ってすぐに帰ろうかと思っていたが、マスターに久しぶりだからと好意で出された酒を一杯だけ消費していた時だった。突然見慣れない男に声を掛けられたのは。 「ねぇ、座ってもいい?」 顔を上げると、このBARには似つかわしくない、上下灰色のスウェットを着た男が、俺の隣の席を指さしていた。 「悪い、これを飲んだら帰るところなんだ、他をあたってくれ。」 男娼にしては、随分色気のない服を着ているが、これから夜を共にする相手を探しているのだろう。生憎だが、俺には和以外のヤツを抱く気はさらさらない。 隣に座るという行為だけでも、和が汚れてしまいそうな気がして、残りの酒を一気に流し込み、目の前のヤツに背を向けた。 少量の酒で程よい気分になり、早く帰って和を愛でよう、そう思っていたのに。 「………へぇ、ダメなんだ、それはお気に入りがいるから?」 何かを知った様な口振りに、思わず振り向く。男はくいっと口角を上げて、言葉を続けた。 「お兄さんの、お気に入り、当ててあげようか?」 核心をついたようなその言葉に冷や汗が伝い、俺はごくりと喉を鳴らす。 「どういう意味だ…?」 「そのまんまの意味だよ?お兄さんの、お気に入り、」 やばい こいつ… 「佐伯和って子じゃない?」 その名前にどきりとする。…いい方じゃない、悪い方のだ。 こいつ、何者だ…? とにかく嫌な予感がした。言葉が出ない俺にさらに追い討ちをかける。 「正解?内田翔吾さん────。」

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