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策に嵌る 4 開生side

「2人とも、意気込みはいいけど、今日の練習はもう終わり。ボスのところ行ったらその後は明日に備えてちゃんと休まないと、ねぇ、涼平さん?」 実さんがそう言うと、涼平さんは思い出したと言うように、頭を抱えた。 「ああっ!明日からまた仕事だった!せっかくいいところだったのによぉ、みのる〜こっそり練習しよう!な!開生も練習まだしたいだろ?」 もちろんです、そう言う前に実さんの声が遮った。 「また成さんに怒られますよ?休むのも、仕事のうちだって。それに涼平さん、開生は明日学校があるから今日はもう駄目ですよ。」 「成はちょっと心配性すぎるんだよなぁ。」 スタスタと前を歩く2人に置いていかれぬよう、俺も歩調を合わせる。 「え、あの、俺って学校行くんですか…?……うぶっ!」 俺の言葉に2人が急に足を止めたから、見事に涼平さんのたくましい背中に顔が埋もれた。 「当たり前だろー?一体何聞くんだ、開生。」 ぽかんとした顔でそう言われて。 「ええっ、この組織に入るって事は、もう学校なんかは、辞めないといけないと思ってました、それに、その覚悟で来たんですけど…。」 「ははっ!確かにそう思うかもね。でも逆なんだよ。こういう組織にいるからこそ、普通の生活もきっちりしておかないといけないんだ。ある程度の教養は必要だし、普通の社会にもちゃんと適合しておかないと、後にしっかりした組織にならなくなるからね。」 そう言われ、んー、と考えた。 つまり、教養もない常識も知らない人達で組織が形成されてしまうことになると、中身のない脆い組織になってしまうという事だろう。 「何だか、すごくしっかりしてますね…。」 「意外でしょ?」 「まぁ、少し…。」 「ちなみに、涼平さんは運送業者で働いてるよ。」 運送業者…。この人にお似合いだなと、筋肉質な体を眺めた。 「働いてるといっても、社員じゃなく、パートとしてだから、こっちの仕事に支障がないんだ。僕も大学受験の時と、入ってから2年は勉強に専念してたけど、今は大学3回生で授業もほとんどないから両立できてるよ。」 だから、開生も自分の進みたい道に進めばいい。 陸斗さんにキアロスクーロに入ることを勧められて、最初は得体の知れない組織で、不安や緊張でガチガチに構えていたけど、実際に中身を見るとこの組織全体が家族みたいだと思った。 「あと、開生が知ってる中では、陸さんが葬儀屋、浩さんが医者。陸さんは自分で起業した葬儀屋だし、浩さんは病院勤務を辞めてもうフリーの医者だし、重役の人たちはみんな、時間の融通が利く仕事をしてるかな。」 そう説明され、今までの疑問が解決した。浩さんは、和が学校以外の時はほぼ一緒にいたし、陸斗さんに限っては、昼間から、ふらふらと現れたり、何をしているのだろうと思っていたが、そういう事か。 そうこう考えているうちに、俺たちはボスに召集されていた部屋の前に着いていた。 「そういえば、ボスと成さんは、何をしているんですか?」 そう聞くと、実さんは、ははっと笑う。 「2人はこの仕事一筋だよ。こんな組織のボスが普通に仕事してたら笑っちゃうよね。成さんは、外にあまり出られない事情があってね…まぁ、ボスの側にいるだけで忙しいからしたくてもできないだろうけど…。」 あまり外に出られない事情…。何があるのだろうか。 ちょうどその時、俺の思考を遮るように、ドアがガチャリと開いた。 「ああ、よかった、今から呼びに行こうかと思ってたところ。さ、入って。」 そう言う陸斗さん越しに、驚いた顔の浩さんと目があったのだった。

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