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策に嵌る 5 浩side
「お待たせしました、ボス。」
手を額の前で合わせ片膝をつく。この姿勢をしたのは随分久しぶりだ。
様々な事情を抱えて、キアロスクーロに引き抜かれた他のメンバーと違いごく普通に生活してきた俺は、このアジトに住んでいない。仕事をする時も、ほとんどが陸を通してしているから、ここにくることも、ボスと顔を合わせることも頻繁ではなかった。
「浩、久しぶりだな。」
そう俺を迎えるボスは、威厳もあれば、どんな奴でも受け入れるような、懐の深さがある不思議な人だ。
「頼まれていた仕事は全て遂行しました。和の件、陸から聞きました。御協力嬉しく思います。」
「ああ、ご苦労だった。約束通り和くんの件が片付くまでは、他の仕事は頼まない。それだけに取り組んでくれたらいい。」
ありがとうございます、と俺は改めて深々とお辞儀をした。
「まず、今の状況と入手した情報を報告しようか。陸、頼めるか?」
「お任せ下さい。」
そう言い、陸は俺に報告書を手渡す。
「あれ?今日は成はいないんですか?」
召集や報告はほとんど成が行う。それ以外でも侍従として、常にボスの側に仕えているのだが…。
「ああ、成なら、俺の部屋で寝てる。」
「成がですか?珍しいですね。」
誰よりも早く起き、誰よりも遅くまで仕事に勤しむ彼が、こんな時間まで寝ているなんて。そう呑気な事を考えていたが、陸の溜息と目線で察しがつく。
もしや、今回の件に関わっているのか?そう聞こうとしたが、陸が報告を始めた。俺は気を取り直して、そちらに集中する。
「……以上の事を踏まえて、犯人は内田翔吾で間違いないだろうね。接触は試みたものの、もしもの時を考えて、慎重にと、尾行は控えておいた。後は、警察組からの情報と、内田からのアクションを待つだけってとこかな。」
「内田からのアクション?」
陸の報告にすかさずボスが尋ねる。
「ええ、接触を試みた際に、少しカマをかけてみたんです。一か八かですので、後は向こう次第かと。」
「うむ、じゃあそこはこちらも様子を見ることにして、今の段階で考えうる作戦をとにかく練っていこうか…そういえば、遅いな。」
もう来てもいい頃だが、時計を見て、そう付け足した。少し見てきますという陸を横目に、俺はボスに問う。
「誰か来るんですか?」
「ああ、新しいメンバーだ、浩もよく知っている……、」
「今呼びに行こうかと思ってたところ。さ、入って。」
陸の声に振り返った俺の目線の先には、
(開生……?!)
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