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策に嵌る 6 浩side
「開生…どうしてここに…?」
俺がそう訊くと何故か開生は気まずそうに目を泳がせる。答えを求めるように俺は陸を見遣った。
「開生は今回の和くんの件で協力してくれる事になったんだよ。そのまま、キアロスクーロにも入ってもらう事にした。」
つらつらと答える姿に、プチっと頭から音がした気がして。
「っ、陸てめぇ…。」
「おおっと誤解だよ。」
びっくりするじゃん、やめてよ。
そう言いながら、俺の拳をひょいっと軽々しく避ける。
「何が誤解だ…。」
ピリピリとした目線の間に、窺うような声が入ってきた。
「協力させて欲しいと言ったのも、キアロスクーロに入る事にしたのも、決めたのは俺です。」
「開生…。」
「黙っておくつもりはなかったんです!ただ、浩さんなら、引き留めると思って、それを避けたくて…すみません。」
そりゃあ、引き留めるに決まってる。
開生はまだ高校生だ。こんな世界に引きずり込むわけには。ましてや、普通の環境で育ったおまえが…。
「でも、どうしても和を助けたいんです。」
その眼差しに澱みはなかった。だからこそ、だ。だからこそ余計に、開生にとってここは…、この世界では、あまりにも悲しい事を見る羽目になる。俺だって…。
「だめだ、開生。和なら必ず助ける、安心しろ。だから、考え直せ。」
そんな、悲しい顔をするな。
開生は人思いの優しいやつだから、何もしてやれない自分が悔しいのだろう。
唇を噛み締めているのが見えた。
「まぁ、待て、浩。」
静かな空気を打ち破ったのは、ボスの声だった。
「お前の気持ちもわかる。俺だって、最初、陸に提案された時は反対したさ。」
ボスが反対していた事を初めて聞いたのか開生は「え…、」と声を発した。それを見てボスはにこりと微笑み、続ける。
「でもな、よく考えたんだ。自分の大切な人が、仲間が、つらい時放ってはおけない。ましてや居なくなってしまうなんて考えたくもない。それは、もう10年以上の付き合いになる涼平、陸、成、実、他のメンバー…それだけじゃなく、浩、開生、お前たちもだ。お前たちも心から大切なんだ。もしキアロスクーロのメンバーに何かあったら、気が気じゃなくなるだろうな。その時は、俺は命を捨ててもお前たちを必ず守る。」
その言葉に、そこにいる全員が心を打たれただろう。どうして言葉だけで、こんなにも心を動かされるのだろう。
「開生は和くんと中学からの付き合いだったんだそうだな?」
優しく聞くボスに、開生は慌ててそうですと答えた。
「青春を共にしてきた大切な親友が苦しんでいるところを、助けることができずに見ているだけなんて、できないよな。浩、それはお前も分かるだろう?開生はキアロスクーロに入れなくても、1人でも必ず動く。そうなれば、ここに入る以上に危険な目に遭う可能性もある。だから、俺たちがバックアップしようと思ったんだ。」
それに、仲間は多い方が楽しいしな
そう付け加えて。
ボスが笑顔でそう言うと、この部屋全体が明るくなるのだ。本当に不思議な力を持った人。
「ボス、あなたには頭があがりません。」
ホッと肩を降ろす開生をみて、どうしてか、俺まで安心した気持ちになった。
「そうと決まれば、作戦会議だ。」
ぱんっと叩かれた手にみんなが目を合わせて頷いた。
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