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おかえり? 1
───……
……
…
「ん…。」
チュンチュン───。
小鳥の囀りが聞こえる。もう朝かな。でも、後もう少し…。そうして滑らかな肌触りのシーツの中にもぞもぞと埋もれようとして。
「あ、れ…。」
違和感に目を開け上体を起こして見てみると、僕は知らない場所にいた。広めの和室。そして視線の先には中庭だろうか、先ほどの囀りの主である小鳥たちが仲良く水浴びをしている。平和な光景に暫くぼうっとする。
あれ?なんだっけ…。
何かが違う。答えを見つけ出そうとした時、
「おはよ、和。」
「わっ!」
突然背中から声がして、とっさに布団から飛び出した。振り向いて居たのは寝間着を着た男。よく見たら僕はその男とお揃いの寝間着を着ていて、更には、さっきまで僕がいた布団には目の前で微笑んでいる男が入っていて。
一緒に寝てた…?
頭の中が混乱する。
なんだっけ、なんだっけ…。
「驚きすぎ。」
男は、ゆっくりと布団から這い出てくる。でも混乱している僕はその事に気付かない。
「和?体調はどうだ?」
そう言って僕の顔を覗き込んできて、気配を感じ顔を上げた時にはもう遅かった。唇が触れるほどの距離で目が合う。そして、男の手が僕の頬に触れた瞬間だった。
ばちん──。
和室に響く鈍い音。
咄嗟に添えられた手を叩いていた。触れられた頬から段々と熱くなってきて、血管が騒がしくなってくる。
っ、こいつ…!菅井浩…!
一瞬だった。引き剥がすように菅井浩の肩を勢いよく押す。そうすると、驚いた顔の奴は、さっきまで寝ていた布団に背中を打ち付け顔を歪める。構わず俺は跨って、そして、首に手をかけ一気に力を入れた。
「っお前の、せいで…っ!」
息が苦しい。俺は、首を絞めている方なのに。
全身の血管がどくどくと騒いで、汗も噴き出してきて。
内田さんは言っていた。菅井浩が俺たちの仲を引き裂くのだと。実際に、菅井は他のやつらも引き連れ、俺たちの家に突然入ってきて内田さんを捕まえた。そして俺は、こいつを殺したはずなのに…
邪魔者は消せ───。
殺せ、殺せ──!!
「し、ねっ……!」
そう言って、手に全体重をかけた時。
「っ……!」
手首を掴まれた、そう思った時にはすでに形勢逆転していて。真剣な、そして悲しそうな顔で、菅井は俺を見下ろしてくる。
「離せっ!どけよ!」
ジタバタと暴れるがびくともしない。暫く罵ったり、手で引っ掻いたりしてみたが、完全に布団に縫い付けられてしまう。力で敵わない事を悟り目を閉じた。
「内田さんは…、」
しんと静まり返った和室に蚊の泣くような声が響く。菅井はぴくりと眉を動かすと息を吐いた。
「内田に会いたい?」
「っ、当たり前だ、俺を内田さんの元へ返して…。」
もう殺すとかいいから。とにかく帰して。
「……分かった。」
思ってもみなかった言葉に、ぱっと目を開く。
「ただし、」
悲しそうだった顔が不機嫌な表情へと変わって、
「歩けるようになってからだ。」
「は?」
気の抜けた声が出る。馬鹿にしてるのだろうか。そのくらい、と、立ち上がろうとするが、
「えっ…」
すとん、とへたり込んでしまった。足に力が入らなくて、膝が笑っている。その膝を労わるように菅井が撫でてくる。
「和さ、長い間歩かされてなかったんだろ。ずっと拘束されてて…。そりゃあ筋力も落ちる。かなり痩せたし、体力も全然ないと思うぞ。その証拠に、さっき一生懸命俺の首絞めてきたけど、ちょっと苦しいくらいだったし。それよりも、腹に乗られてる方が痛かったな。誰かさんが刺してきたから。」
皮肉めいた口調に目をそらす。でも、逸らした先には菅井のお腹があって。帯が緩んで少しはだけた寝間着の間から見えるぐるぐるに巻かれた包帯。少し血が滲んでいた。
あれは、俺がやった…。
ずっとそこを見つめている俺に、菅井は続けて言葉を投げかける。
「後は、逃げようとしたり、さっきみたいに俺を殺そうとするのもなし。大人しくしていたら会わせてやる。内田の身柄は拘束してあるから、変な動きしたらどうなるか分かるよな。」
高圧的な声に、こくこくと頷くしかなかった。
「早く会いたいなら、ご飯も食べて、ちゃんと睡眠とる事。まぁ、それまでに俺が思い出させてやるけどな。」
そう言って菅井は弱く笑った。
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