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おかえり? 2 浩side
「で、どうだった?様子は。」
アジト内の大浴場。和が寝たことを確認しここへ来ると、ちょうど陸が湯に浸かっていて。何が楽しくて2人きりで風呂入らねえと行けねーんだよ。そう心の中で毒を吐きつつ、こいつには内田の尋問を任せてあったので、聞くことがたくさんある。しかし、先に質問をしてきたのは陸のほうだった。
「お前の言ってた通りだった。心構えはしてたが、あれは結構堪える。」
「やっぱり?」
「ああ。でも俺の事を忘れてるってレベルじゃないな。まさか殺しにかかられるとは思わなかった。っ、痛っ、て」
「ほら、傷口塞がるまでは湯船浸からない方がいいよ。俺も浩くんの血風呂入りたくないし。キタナイ」
「うっせ。」
足だけを湯に浸け、手渡されたタオルで腹部を拭う。その様子を見ながら陸は眉をひそめた。
「それよりも、殺されかけたわけ?」
「ああ。」
はぁ、と陸は息を吐く。
こいつは和と部屋を一緒にする事に反対していた。俺が傷付くんじゃないか、その心配を要らないと払いのけた事を思い出す。ああ、やべ。
「やっぱり部屋別にした方がよくない?」
ほら、思った通りのことを言われる。こいつがその気になれば、強制に離れ離れにさせられるだろう。せっかく会えたのに、和と離れるのはごめんだ。
「いや、いい。何かしたら内田に会わせないって条件出したし、下手なことはしないだろ。」
「うわぁ…、なんか悲しいね。」
もっとああだこうだ言われるかと思ったが、陸は案外あっさり引いた。条件を出した事は妥当だと判断したのだろう。
「それで、ここまで和を変えてくれるとは、内田のやつ、何したって?」
教えるけどキレないでね、そう言って陸は内田から聞いた事を話し始めた。
「簡単に話すと、最初のうちは暴力や無理矢理な性行為によって和くんを恐怖に陥(おとしい)れた。恐怖心から徐々に内田に従う様になってきたけど、浩の事を考えてたり、内田を怖がったりするのが気に食わなかったみたい。そこで媚薬を使った。」
「…教科書通りの発想だな。」
俺はキアロに来てからマルチで医務をこなしているが、元はと言えば精神科医。この手の症例も見てきた。
媚薬の効果がある間は、正常な判断能力を失い、ただ快楽を追い求める様になる。そして、求められている側は、自分が好かれていると錯覚するのだ。たとえ、自分が飲ませた薬のせいだと分かっていても、だ。
「初めのうちは用法用量を守っていたみたいだけど、徐々に量も多くして、最終的には断続的に飲ませていた。その頃からよく意識が無くなったりするから、鎮静剤を飲ませるようになった。…正確に言えば、鎮静剤だと思っていたもの、だね。内田はそう言ってる。」
「あいつ…言い逃れか?どうせ良くねえヤクだったんだろ?和の様子見りゃわかる。あれはただ洗脳されたってわけでも無さそうだ。」
直ぐに分かった。俺を殺そうとした時のせわしなく揺れていた真っ黒な瞳。
瞳孔は少し開いていた。けれど肌には注射痕はなかった。
麻薬の類で錠剤タイプのものとなれば…、
「MDAか…。」
「へぇ…、あたり。」
俺の呟きに、陸は感心した様に数回手を叩き、ふう、と息を吐いた。
「脅して媚薬飲ませMDA飲ませの繰り返し。記憶が曖昧になってきたところに、浩は敵だと吹き込む。それで今。」
経緯はザッとこんな感じかな、のぼせそう、そう言いながら湯船から上がり体を拭き始める。
「ヤクがどこから流れたか調査するから暫く内田は借りるよ。色々と言いたい事あるだろうけど、接見ならその後でお願い。今は和くんのそばに居てあげて。」
「ああ、そうするつもりだ。」
「何なら護衛でも付けようか?愛おしの人に命狙われてるわけだし?」
「いらねえ。和に殺されるなら本望だ。」
「相変わらずだね。」
クスクスと笑う陸を軽くあしらい、ため息をつく。1人になった大浴場にそれは響いた。
さて、どうするか…。
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