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おかえり? 3

「和、おはよ。」 目を開けると柔らかい笑顔が見える。今日も最悪な目覚めだ。 此処へ来た日以降、朝は必ず菅井に起こされていた。身の回りの世話をしてくる事への反抗心もあるが、それよりも、無防備な姿を見られたくなくて。今日こそは菅井が起きるよりも先に起きていたかったのに…。 「よく眠れたか?」 俺を心配するような声に嫌気がさした。俺と内田さんの敵なのに、こいつは一体何がしたいんだ。よく眠れたかなんて一緒に寝てるくせに分かってるだろ、そう思いながらキッと睨むと一瞬困ったような顔をしたのが見え、何故か心臓がどくりとした。そんな顔をされたら、俺が悪いみたいじゃないか。俺は被害者なのに…。 「今日はみそ汁と雑炊。どっちから食う?」 「い、いらない…。」 なんだか気分が落ちて、咄嗟にそう言うが、菅井はそれを許さない。 「はぁ。従ってた方がいいんじゃないか?ほら、食欲ないなら無理しなくていいけど、みそ汁だけでも食っとけ。」 強引に押し付けられると食べざるを得ない。仕方なくひと口飲むと、体にじんわりと温かさが沁(し)みて、ほぅ、と息をついた。 「うまいか?」 そう言って菅井は嬉しそうに微笑む。そして大人が子どもにするように、頭を撫でられて、 「………っ!」 「あっっっっつ!!!」 咄嗟に頭に乗る手を押し退けようとして、みそ汁を盛大にこぼしてしまった。 こぼすと言うより菅井にほとんどを浴びせ掛けてしまったと言う方が正解か。 「和っ、大丈夫か!?」 「お、俺は…大丈夫…。」 「そっか、よかった。ごめんな、急に触って驚かせたな…。」 どうして。 濡れて少しはだけた着物の隙間から見える、赤くなった肌と包帯。火傷だけでも痛いだろうに、傷口にそれはかなり滲みるだろうに。 どうして、俺の心配をするの。 俺が悪いのに、どうして謝るの。 菅井は憎き相手なのに、どうしてこんなにも胸が痛いの────。 結局みそ汁は駄目になってしまったが、残りの雑炊は完食した。後ろめたい気持ちがあったから。 完食した事に『えらいな。』と褒めてくれるけど、その大きな手はもう俺の頭を撫でる事なく、食器をトレイに片付けていく。 「下げてくる。」 そう言うと、さっと立ち上がって俺に背を向ける。 行ってしまう。 引手に手を掛けるのが見え、思わず重い体を引きずって、菅井の着物の裾を掴んでいた。 「和…?」 「……ぁ、」 菅井は不思議そうに首を傾げて、こちらに向き直る。パッと手を離すと、一瞬目が合って、俺は逃げるようにその目を伏せてしまった。自分でも咄嗟のことで、どうしようかと思っていると、俺の目線に合わせるように、しゃがんで顔を覗き込んでくる。 「どうした?具合悪いか?」 そう心配そうに聞いてくる顔を見れずに視線を下げたままにしていると、まだ赤くなっている肌が目に入った。 「ぁ…、あの、すみません…。」 「え、何が。」 「さっきの…火傷、してる…。それに、そのお腹の傷も…お、れが…。」 震えながらもゆっくりと伝えた。相変わらず、下を向いたまま。 すると、影が落ちてきて。はっと顔を上げると、菅井は手を止める。そして行き場の失った手で、がしがしと自分の頭をかいた。 「あー。悪い、また頭撫でそうになった。」 「別に…、」 撫でてくれてもよかった。さっきは驚いただけで…。 「謝ってくれてありがとな。やっぱ和の本質は変わらないな。今の和に言っても分からないだろうけどな、俺、お前になら殺されてもいいくらいにお前の事愛してるから。だから気にすんな。」 もう一度ありがとうと、嬉しそうに言ってくる。けれどその笑顔は俺の胸を痛くするだけで。 「そんなの、おかしいよ…。俺は本当にアンタを殺そうとした!アンタは俺と内田さんの憎き相手なのに…その筈なのにっ…!」 どうしてそんなに優しくするんだ。 その言葉はちゃんと口に出来たか分からない。いつものように食後に襲う重い眠気に、俺の意識は支配された───。

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