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おかえり? 6

何が起こったのか一瞬理解出来なかった。 「ぁ…」 菅井が驚いている意味が分からなくて首を傾げたその瞬間、俺は唇を奪われていたのだ。 ちゅ、と軽く触れるだけ。状況を理解した時にはもう離れていて…。 けれど、一瞬時が止まったように長く感じた。 「今夜は冷える。中に戻ろう。」 何も無かったかのように、そう言って立ち上がった菅井の表情は、月明かりの逆光に照らされて、よく見えない。 伸ばされた手に導かれるようにして、その腕の中に収まれば、俺を抱えてくれて。俺は落ちないようにぎゅっと菅井の掛け衿を握る。 穏やかに鳴る心音、菅井の匂い、そして温かさ。 キスをされた時から感じる眠気…。 布団に降ろされて、丁寧に毛布を掛けられる。 おやすみ、と声が聞こえて、少し離れた位置に敷かれている自分の布団に菅井が戻ろうとするのが分かると、途端に切なくなる。 嫌だ…もっと、包まれていたい…。 ひゅっと喉が鳴るのを菅井は聞き逃さなかった。不思議そうに首を傾げる菅井に今度は俺が唇を重ねた。 「…あなたと居ると、……落ち着く…。」 静かな沈黙。 その間も、菅井の寝間着を握ったまま離さない。 すると、意味を理解したのか、菅井は俺の頭を優しく撫でた。 「一緒に寝ようか。」 また、いつものように1組の布団に体を寄せ合って寝転ぶ。菅井の体温に安心して、その胸に顔を埋(うず)めた。それに応えるように菅井は腕を俺の背中に回して、一定の速度で優しく叩いてくれる。 そうしていると、段々と瞼が重くなってきて…。 暖かいな… 瞼を閉じようとしたその時。 ザァァァ…… 外から聴こえる風で木々が揺れる音。 ザァァァァァアアア────….… 『俺がいるのに、和はいけない子だなぁ…。』 「何っ…!?」 「和…?」 いるはずもない、彼の声。 けれど、それは確かに聞こえた。 『菅井浩だっけ?残念…、あの男には消えてもらおうか。』 「っ、ぁ…」 息が上手く吸えない。手もガタガタと震えて…、 『和が悪いんだよ?和のせいであの男は…。』 なに…、なんで…。 必死に耳を塞いでもその声は聞こえてくる。 こわい、恐い…! 『一生俺のそばにいるんだよ?』 知らない…。 頭がガンガンと警告音を鳴らす。 『約束破ったらどうなるか分かるよね?』 しらない…! こんなこと…! それでも鮮明に恐ろしい風景が頭に走馬灯のように流れてくる。 目を瞑っても。 耳を塞いでも。 『許さない…。』 『ころす、』 「ひっ…!」 『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…!!』 「ぁ、ぁぁぁぁぁぁあああああ''────!!」 ──── ─── …

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