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おかえり? 7 浩side
何か物音がした気がして、意識が覚醒する。それでも頭はまだ泥の中に浸かっているように眠い。唸りながらもぞもぞと体勢を変えて再び眠ろうとして…、
「……っ!!」
隣にいるはずの和がいない。布団はもぬけの殻だ。ドッドッ…と心拍数が上がって。あの時…、和が内田に攫われた日と重なる。
辺りを見渡し、襖が微かに開いているのに気付いて覗き込むと、縁側に座って月を眺めている和の姿があり、ひと安心した。
月を眺める後ろ姿は、弱々しく儚(はかな)くて…
そして、美しかった。
ふと、サァァ…と風が通って、体が小さく震えた。それは和も同じだったようで、身を縮め腕を軽くさすっている。
もう11月下旬、夜はかなり冷える。
ゆっくりと襖を開け、その小さな体を抱き締めようとして苦笑いした。朝の拒絶。ほんの些細な事だったのかもしれないが、俺の手が和の頭に触れた時、そして突き離した時、確かに和の目は恐怖に揺らいでいた。反発した事はあっても、あれ程怯えて拒絶されるのは実は初めてだったのだ。
けれど風邪を引いてはいけない。
出来るだけ驚かさないように、背後から俺の着ていた羽織を掛けてやる。そして少し間を空けて和と同じように腰を下ろした。
「起きたらいないからびっくりした。寒いだろ。悪い、それしかなくて。…眠れないのか?」
「……。」
しん、とする。
俺の声は静かな夜の空気に吸い込まれたみたいに…。
俯いている和は俺の羽織をぎゅっと握り締めて、そして、何か言いたげに顔を上げた。
「……っ!」
そこで、初めて和の表情が見えた。
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