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おかえり? 8 浩side

一瞬だった。 大きな黒目がちの瞳から溢れて零れ落ちた一筋の涙。月明かりに照らされてそれはきらりと光って。 どきりとした。 ここへ連れ帰ってから、何も通してなかったその瞳に、微かに光が宿っていて。元の和に戻ったような、俺を求めているような気がして…。 咄嗟にその寂しそうな唇を塞いでいた。 はっとして触れるだけで離れる。 突き放される事は無かったが、和の表情を見る事が出来ない。 もし、また怯えていたら…。嫌がっていたら…。 受け入れたとしても、その瞳に内田の姿を映しているのだとしたら…。 「今夜は冷える。中に戻ろう。」 不安をかき消すように咄嗟にそう言ったのはいいものの、和は何を思ってこの縁側にいたのか分からない。だから、もし、ここから出たいと思い外を眺め涙を流していたのだとしたら、俺の言葉は和を拘束するもの以外の何物でもない。また拒否されてしまったら…。 けれど、その考えはすぐに遮断された。 意外にも俺の伸ばした手に、しっかりと掴まった和。そのまま抱きかかえると俺の胸にその身を委ねてくれて。うとうと瞼が閉じかけていた。いつから、そうなっていたのか分からないけれど、泣いて疲れてしまったのかもしれない。 けれど、今まで中々眠れない和には睡眠導入剤を混ぜたお茶を飲ませていたのだが、今日は飲ませていない。俺の前で薬もなしに、こうして気を張ることなく眠そうにしている姿には、少し驚いたし、安心した。 そうして、ゆっくりと布団に降ろし風邪を引かないよう毛布を掛けてやってから、自分も布団に戻ろうとすると、和が何か喋ったような気がして…。 振り向くとそれも一瞬だった。 重なった唇。 俺からではない、和の方から。 ほんの少し触れるだけのそれは、すぐに離れていって…。 和はぺたんと座り込み俯き加減でぽつりと言葉を漏らした。 「…あなたと居ると、……落ち着く…。」 そしてまた、俺を見据える和。 全身に電気が走ったみたいだった。 その目は、以前の和の目と同じだったのだ。 謙虚で、遠慮がちに、それでも誰かの温もりが欲しくて、恐れながらも愛される事を欲していたあの頃と。 「一緒に寝ようか。」 大丈夫、俺はちゃんとお前を愛しているよ。そう言い聞かせるように頭を撫でてやった。

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