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僕と影 1 浩side
「おい、そこに居るんだろ。入れ。」
そいつはいつも突然にフラフラと現れる。はっきり言って迷惑だが、今は電話を掛ける手間が省け、都合が良かった。要らないと言ったのに、外に護衛を付けていた事は癪に触るが。
「わぁ、また殺されかけてるのかと思ったけど違うみたいだね。」
「陸。」
冗談交じりにそう言う陸のいつもの口ぶりを咎めるように強く睨むと、ごめんごめん、といってそれから真剣な表情へと変わる。
「パニック発作?」
「ああ…。」
「可哀想に、まだ苦しそう…。」
そう言って陸は、荒く呼吸する和の汗で額にへばりついた前髪を掻き分け、いるものは無いかと聞いてくる。俺はタオルと新しい寝間着をと、廊下で待機していた護衛にそれを持って来させ、それから下がるように命じた。
「今日は和くん調子悪かったの?」
「いや、発作は急にだ。ただ、今日は朝から何時もと違ったな…。朝、少し和に触れた時に拒絶された。でも、その後は気使う様子もあったし、俺といると安心するとも言われた。」
「記憶が戻りつつある…?」
「分からない。けどとにかく、以前の…記憶が無くなる前の和に戻ったようなそんな感じだった。それが、いきなりだ。パニック起こして、落ちる寸前に内田に許しを乞うてた。」
「へぇ…内田、ね。」
以前から精神的に不安定だった和は発作を起こす事は度々あった。しかし、今回の発作は、今まででとは違う。俺に心を開き始めた途端、内田に植え付けられた恐怖などを思い出したのか、幻聴か。詳しくは分からないが、そんなとこだろう。それほど、内田といた期間は強烈な出来事で、これからも和に刻みつけられるのだろう。細くて綺麗な腰に刻まれた、内田和、の文字と同じように…。
「で、これからどうするの。」
「確実に、和の中で何かが変わっているは事実だ。精神科医として少々荒治療が必要なのも知ってる…。」
「…それは、和くんは耐えられるの?」
「難しいかもしれない。でも、今しかない。」
少しの沈黙の後、陸は「了解。すぐに手配する。」と言って部屋を出て言った。
────
『記憶を取り戻せるかもって…?』
『ああ、和の場合ストレスや薬によって以前の記憶が封印されてる状態だからな。』
『何をすればいいわけ?』
『今までの思い入れのある物や、そうでなくても以前の環境に戻す事だな。よくあるだろ、記憶喪失の人にアルバム見せたりして。ただ、本人に負荷をかけてしまう場合もあるがな…』
『だから慎重に、時と場合を見て対処しないといけないわけか…』
『そういう事だ。俺が四六時中側にいて、その時を見定める。』
────
少し不安はある。
だが、今を逃せばもうその後は無い気がした。
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