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僕と影 2

今日の朝はいつもと違った。 菅井に「おはよう。」と1日の始まりを告げられるのは同じ。その後に朝食が運ばれてきて、一緒に食べて、それから歯磨きをする。それも同じ。 昨日の夜の事ははっきりと覚えていて、少し緊張してしまうのは気のせいだとして…。 「これ、何…?」 俺が歯磨きをしている間に運んだのか、部屋にはたくさんの段ボール箱が並べられていた。 「リハビリ。」 そうとだけ答えて、菅井は1番手前にあった段ボール箱を開けていく。そして、1番上にあったマグカップを手渡された。 「どう?」 「……。」 どうも何も、何がしたいのか。 取り敢えず、手に取って色んな角度から見てみるが、どうすればいいのかよく分からない。 「じゃあ、これは?」 そう言って手渡されたのはパソコン。 「開けても?」 「ああ。それ、和のだから。」 「俺の…?」 見覚えがないけど。 くれる、と言う事なのか。 開いて見たら、デスクトップに体操服を着た男子たちがピースサインをして笑顔で映っている。 「え…、これ、って…。」 ふと目に入ってきた真ん中にいる人物。隣の男に肩を組まれて、少し控えめに笑っているその顔から目が離せなくなった。これは… 「お、れ…?」 固まる俺の肩を撫でながら、横から菅井も画面を見る。 「正解。隣にいるのが開生。分からない?」 「……分かんない…。」 俺は弱々しくかぶりを振った。 分かるはずない。俺にはこんな記憶、ない…。 俺は内田さんに愛されて、幸せな生活を送っていて。けど、菅井によってそれは壊された。内田さんと離れ離れになってしまって、俺たちの敵である菅井を俺は殺し損ね捕まってしまって…。俺の中ではその記憶しかない。 でもよくよく考えるとそれはおかしいのだ。俺はずっと内田さんとあの場所に住んでいたっけ?その前は?学校は?俺の家族は…?そもそも俺って誰だっけ…。 もう一度、画面に映る自分を見る。こうやって楽しそうに、友達に囲まれている姿。知らない。分からない。俺の知らない自分がいる。自分が何者なのか、分からない…。 ───怖い。 「ちょっと休憩しよう。ゆっくりでいい。」 呼吸が荒くなりつつある俺を見兼ねて、菅井は「お茶を持ってくる」と言って部屋を出て行った。

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