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僕と影 5
それ以来、俺は空を見上げては毎日母さんと話をした。父さんのように、他愛もない話をしたり、辛い時には相談だってした。
歳が上がるにつれ、少しずつ色んな事を覚えていく。中学に入る頃には仏壇の意味だってちゃんと分かっていて。……母さんは死んだという事もちゃんと理解していた。
たまに、ふと寂しくなる時もある。けれどそんな時は父さんとまたあの場所に行って、3人で話したりして。そうすればまた元気な気持ちになれた。
中学2年生の冬のある日。父さんと母さんの墓参りにきた。これで3度目。そして今日は母さんに、『僕は14歳になったよ』と報告しにきたのだ。父さんが、手桶を地主さんに借りにいくと言って、その場を離れた時だった。
『お前…』
砂利の音と共に、そんな低い声が聞こえて、振り返る。そこには見知らぬ男性が立っていた。父さんと同じくらいの歳の人。顔色は血の気がなく、少しやつれていて、光のない目のまま茫然と俺を見ていた。
『…佐伯和だな……?』
『…ぇ、あ、そうです。……えっと、』
あなたは?そう聞く前に、胸ぐらを掴まれて、その人は凄い剣幕で俺を睨みつけ、そして怒号を浴びせた。
『お前さえいなければ…!!何のうのうと生きてやがる!この人殺し!!』
人、殺し…?
この人は何を言ってるんだろう…。
『ぁ…、あのっ』
『お前は、俺の妹だけじゃなく、俺の親まで殺した!!よくもここにっ…、妹の前に顔を出せたな!!』
この人の妹…?親…?ころした…?
『ど、どういう事、ですか…?』
震える声でそう聞くと、男は信じられないという顔をして、そして俺の首に手をギリギリと食い込ませた。
『ぶざけた事言ってんじゃねえよ…。お前を産むのと引き換えに、俺の妹は死んだんだ!それを知って、両親も自殺した!!俺たちのっ、幸せを!めちゃくちゃにして、奪ったくせに!お前は…!!』
『……っ!っぁ、、し、知らない…、そんな…ぼ、くは…ぁっ、かはっ!』
『何度でも言ってやる!お前は自分の母親を殺した最低な息子だっ…!俺はっ、お前を絶対に許さないからな…!!この人殺し!!』
更に首を強く締められ、足は地面に着かず宙をかく。意識が段々と遠のきかけた時…
『やめろ!!何やってんだ!!』
遠くで父さんの声が聞こえる。
それでも男は、何も聞こえてないかのように、手の力を緩めない。
父さんは、焦って急いで駆けつけてくる。そして、男の腕を掴み、睨みつけながら静かな声で言った。
『妹の前だろ。やめとけ。義兄さんが和を殺したら、あいつは、アンタを恨むぞ…。』
父さんの言葉に、男は手の力を脱力させた。俺はそのまま地面にへたり込む。うまく呼吸が出来ない。
男が後ずさりしながらこの場を離れていくと、父さんはゆっくりと俺を抱きしめた。
『ねぇ、父さん…。』
震えている蚊の鳴くような声は、しんとした墓場に消えて吸い込まれていく。
『僕は人殺しだったんだね…。』
『……っ。違う!和は何も悪くない!』
『あの人の言ってた事、僕を産むのと引き換えに母さんは死んだ。あれって本当の事でしょ…?ずっと気になってた。どうして母さんは死んだのか。父さんが隠してたのは、そういう理由だったんだね…。』
『……か、ず…。』
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