82 / 100

僕と影 6

な俺は望まれない子だった。 そして何よりも、俺が母を殺したという事実が深く胸に突き刺さった。 『僕なんて、産まれてこなければ…』 バチン───。 乾いた音が響いた。 気付いたら、顔が横に向いていて。左頬がじんじんと痛む。 『そんな事言うんじゃないっ…!!母さんは望んで和を産んだ!自分を犠牲にして!自分の命よりも壱の事が大切なんだよ…!それは父さんだって同じだ…!』 ああ…俺は父さんも泣かせてる。さっきの人も、泣いていた。みんなを不幸にしてる。 『僕は…どうすれば…。』 どうしたら、いいの?もう、分かんないや…。 つぅ、と頬を涙が伝う感覚がした。 それを父さんは指で拭ってくれて…。 『…今日の事は、忘れてしまいなさい。』 『わす、れる…?』 『ああ…。これはただの悪い夢だ。』 『ゆ、め…。』 『起きたらきっと忘れてるから…。』 だから、眠りなさい。 そう言われて、背中を優しくさすられると、不思議な事に段々と眠気が襲ってきて…。 そして、俺は知らず知らずのうちにその日の事を、人殺しであるという事を、封印した。記憶から消したのだ。 しかし、それは逃れる事の出来ない事実だった───。

ともだちにシェアしよう!