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僕と影 7

あの日の記憶を消してからも、俺の中には誰からも必要とされていない虚しさだけは残っていた。もちろん父は俺の事を愛してくれていたし、一生懸命に育ててくれた。それが唯一の心の救いだった。しかし、俺の高校受験が終わると同時に主任に昇進した父は仕事が多忙を極め、帰りも遅くなった。 だから高校に上がると父と離れて暮らすようになった。高校が実家から遠いため、引っ越そうと父は提案してくれたがそうすると今度は父が職場から遠くなってしまう。これ以上は迷惑をかけられないと、一人暮らしする事を決めたのだ。 高校生活は、中学からの付き合いの開生も一緒だったし、それなりに友達もでき、勉強もそれなりにこなして、順調だった。 けれど、寂しさを埋めることは出来なくて…。 そんなある日の事だった。 俺の生活を劇的に変えるきっかけとなる出来事。 俺はテスト期間中、勉強の気晴らしのため、すぐ近くの公園のベンチで休憩をしていた。普段から人通りの少ない裏道にある小さな公園。いつも夜になると当然閑散としているのだが… 今日は違った。ガヤガヤと煩い3人組の男が公園へと入ってくる。賑やかだな、程度にしか思っていなかったのに、彼らは一直線に俺の方に歩いてくるから、緊張感が走った。 『なあ〜、兄ちゃん何してんの〜?寒くない?』 見た目と違って柔らかい声で話しかけられて、気が緩む。 『テスト勉強の休憩で、頭冷やそうと思って…』 『へぇ〜テストかぁ、大変だねー。あっ、いいものあげる〜。』 そう言って渡されたのは、カップに入ったコーヒー。どうしようか迷ってあたふたしていると、両手を掴んで持たされる。湯気の立っているそれは、カップに越しでも熱が伝わってきて、手がじんわり温まっていった。 『コーヒーは眠気覚ましにいいんだよ〜。』 「飲みな飲みな」そう言って強引にカップを口の方に傾けられる。ヘラヘラと笑っている顔が、少し不気味で、さっさと飲んでお礼を言って、帰ろうと思ったのだが…。

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