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僕と影 10
『や、やべえ!』
『チッ、くそっ、逃げるぞ!!』
遠くから警察を呼ぶ人の声が聞こえてきて、男たちは慌てて逃げて行く。警察、くるのかな…。そう他人事のように考えていると、聞き慣れた声と共にバタバタと駆け寄ってくる音が聞こえてきた。
『和……!!大丈夫か!?』
(かい、せい…?)
開生が駆け寄ってきて、そして俺の姿を目に写すなり息をのむ声が聞こえて。
『ひでぇ…。』
開生はそうポツリと呟くと、すぐに自分の着ていた上着を俺に被せ、そして口と手首に巻かれていたガムテープを慎重に剥がしていった。
『和…、どうする…?さっきの電話は嘘でまだ警察は呼んでない。呼ぶか…?』
男が男にレイプされたなんて、知られたくない。特に父さんには心配をかけたく無かった。だから、俺は弱々しく首を振った。そんな俺の気持ちを、開生は汲み取ってくれる。
『分かった。取り敢えず和の家まで送るから…。』
『……ぁっ…。』
『っ大丈夫か?どっか痛む?』
『う、ううん。大丈夫だから…。』
背中に手を回して、上半身をゆっくりと起こしてくれる。そんな開生の手にさえ少し反応してしまって。それがとても苦しかった。
それから、塾帰りだったという開生の自転車の後ろに乗せてもらい家に着いた。1人で大丈夫かと心配する開生に俺は本当に大丈夫だからと念押しし、あんまり納得してない様だったが、開生は渋々帰っていった。
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