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第3話

回想した結果、成り行き任せでリョウさんに着いてきた俺がバカだったということが判明した。しかし、今更そんなことを思っても後の祭りで。 「…えーっと、良くないって言ったらアナタは俺をここから出してくれます?」 俺よりも背の高いリョウさんに恐る恐るそう声をかけ、俺はせっかくラブホテルにいるというのに何も出来ないまま、ジャケットの裾を握り締め部屋のど真ん中で棒立ちするけれど。 「冗談だよ。キミの相談をしっかりと聞いてあげるためには、こういう空間を用意した方がいいと思って連れてきただけだから。さて、初めてラブホテルに入った感想はどうだい?」 借りてきた猫状態の俺と、大きなソファーに腰掛けて長い脚を組むリョウさん。 初めて会った三時間前から思っていたことだが、この人はどうしてこんなにも色気があるのだろうと…俺は、問われた疑問なんかそっちのけでリョウさんの姿を見つめていた。 きちんと着込まれたスーツは上品で、見た目180cmくらいの長身にとても良く似合っている。艶やかなブラウンカラーの髪は頬を隠すくらいの長さがあるけれど、不潔感を感じさせないナチュラルなスタイルで。 その髪の奥から、綺麗な二重まぶたが俺に向けて細められるから。優しい笑顔が出来る人なんだな、なんて。 目尻に浮かぶ小さな皺に視線を向けながら、俺はこの人のことをもっと知りたいなんて身勝手なことを思っていた。 本当は、俺は会う前からリョウさんのことを知りたがっていたのかもしれない。文字だけの情報は、俺の様々な想像心を掻き立てたから。 たかが一ヶ月のやり取りだったが、リョウさんの印象は最高だったのだ。だから素直に会ってみたいと思ったし、実際に会ってみたら最高だと感じているどころかそこから更に上昇中なわけで。 …俺も歳を重ねたら、リョウさんのような余裕感のある大人な男になりたい!! なんて、そんな思いを抱きながらも俺の身体は棒立ちのまま動いてはくれなかった。 プロフィールを見た瞬間は、哀れなオヤジだなと思ったことが嘘のように。話していくうちに、俺はどんどんリョウさんに憧れのような気持ちを抱いて。 スマホの向こう側にいたリョウさんに会った時、俺は得体の知れない感情に取り憑かれてしまったような感覚を覚えたんだ。 「タク、大丈夫?」 「へっ、あ…大丈夫っス」 タク。 俺のことを呼んだリョウさんは、突っ立っている俺に声を掛けれてくれたんだが。実名の二文字をネームにしていた俺は、リョウさんにそう呼ばれ、変な声を出してしまった自分が恥ずかしくて俯いた。 リョウさんの声も態度も落ち着いているのに、俺だけが浮ついた状態で落ち着かない。 …でも、そりゃそうか。 俺はラブホテルに入ったことがない童貞で、しかも一緒にいる相手は男なのだから。

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