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第4話

食事をして、それなりに酒も飲んで。 これで相手が女の子なら、このまま初体験に持ち込める一世一代の大チャンスが俺に到来しているというのに。 「こっち、座ってみるかい?」 俺に声を掛けてくれるのは男で、でもリョウさんに悪気は全くなくて…リョウさんとこうして会えたことはとても嬉しく思うし、感謝もしているのに。広々している室内で複雑な気持ちを抱える俺は、リョウさんの言葉に今度こそ反応しようと試みた。 「あ、ありがとうございます…すみません、俺なんかすげぇ緊張しちゃって。あの、でもっ、せっかくこんな場所に来たんだから色々楽しまなきゃ損、ですよね?」 「そうだね。タクに彼女が出来た時の予行練習的な感じで、今日は色々と楽しんでくれると俺も嬉しいかな」 柔らかく微笑むリョウさんの表情に釣られ、俺はリョウさんが座っているソファーの隅に腰を下ろす。 彼女が出来た時の予行練習、リョウさんのその言葉を頭の中で復唱した俺は、今日のリョウさんの言動を思い返していく。 待ち合わせも、食事も。 俺の都合と好みに合わせてくれて、どうでもいい俺の話を穏やかに受け止めてくれたリョウさん。最初から、現在進行形で、俺はとても気分良くリョウさんとの時間を満喫しているけれど。 …これは、もしかもしたらもしかするんじゃないか? と、頭の中に浮かんだ一つの答えに、俺は頬を染めてしまった。 もしも俺が女の子だったなら、俺はリョウさんに抱かれても構わないと思うだろう。そのくらいに、リョウさんと一緒にいるのは楽しくて安心する。 仮に俺が抱いている感情の正体が、恋心だとしたら。 …いや、そんなことは有り得ないしリョウさんは男だから俺の想いは恋じゃないんだけれども。 考え出したら止まらなくなった俺は、リョウさんにあることを問い掛けてみることにした。 「リョウ、さん…今日の俺って、もしかするとリョウさんの彼女、役、的な…って、嘘です、冗談ッス!」 問い掛けて、でも考えを声にしたら一気に襲ってきた羞恥心には勝てなくて。呟いた言葉を撤回しようと、アタフタする俺を見てリョウさんが笑った。 「タク、ご名答だよ。キミには言わなかったけど、今日はタクが女性役。女性の気持ちが分かれば、キミも自然なエスコートが出来るんじゃないかと思って俺から仕掛けてみた」 …あぁ、やっぱり。 そう思っても声には出さず、俺はリョウさんのはにかんだ笑顔に見蕩れているだけだった。

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