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第5話
今日は、俺が女の子役。
その言葉は薄れないまま、俺の心の中でふわふわと浮遊する。
緊張感丸出しの俺が寛げるように、リョウさんはバスルームでシャワーを浴びてくるからと…そう言って部屋から消えた後、俺に独りの時間をくれた。
一緒にいる相手が例え男だったとしても、初めてのラブホテルでただボーッとして時間が過ぎていくのは勿体ない。初体験は出来ないけれど、それでもせっかくリョウさんが童貞男の俺のために連れてきてくれた場所なんだから。
俺は緊張感を好奇心に変え、部屋の隅から隅までキョロキョロと見渡しながら歩いてみることにした。
「うわっ、すげぇ…ベッドの近くに電マなんてあんのか、ご丁寧にコンドームもある。さすがはラブホテル、ラブがつくだけあんだなぁ」
性行為するための個室、宿泊が可能なのだからホテルと呼ばれるのは分かるんだが。ご自由にどうぞってな感じで、ホテルに置かれているアメニティグッズ達が俺に無言でセックスを促している気がしてしまう。
やたらと大きなテレビの前にはベッドがあり、その横にはソファーがあって。ソファーの前のテーブルの上には、これまたご自由にどうぞ感が漂うデリへルの雑誌が置いてあったから。
俺は一通り室内を歩いた後、その雑誌を手に取りペラペラとページを捲ってゆくけれど。
「…金で女の子を買うのはなぁ、俺には出来ねぇんだよ。素人童貞にはなりたくねぇし、でも魔法使いにもなりたくねぇし。ホント、童貞って最悪だ」
俺が守り抜いた、童貞の二文字。
顔だけ隠して裸体を披露する雑誌の中の女の子達を見つめ、侮辱されている気分になった俺はデリへル雑誌をそっと綴じてしまった。
俺に独りの時間をくれたリョウさんは、ゆっくり入浴中なのだろう。微かに聴こえてくるシャワーの音が、俺の心をざわつかせる。
ラブホテルという貴重な空間に身を置いているのにも関わらず、独りの時間を与えられてしまうと俺は何をしたらいいのか分からなくて。
とりあえず、俺は広々としたベッドの上で胡座をかきつつ、ベッドサイドにあったリモコンを手に取りテレビの電源をオンにしたのだが。
「…あんっ、ぁ…アァッ!」
「えっ!?ちょ、いきなり…待って、待って、待ってッ!!」
テレビがパッと映った途端、大画面から流れ始めたのは有料チャンネルのAVだった。
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