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1-3 崖っぷちとボンクラ

薄い着物からハダけた白い肌、豊満な胸、縄の食い込む肉付きの良い肢体は 男であれば誰しも息を呑むようなものだったが 袖野は何故だか妙に疲れてしまって天井を仰いでやり過ごしていた。 「袖野っちおつー ごめんね急にきてもらって」 どこからか近付いてきた男は同じ出版社の社員だった。 主に芸能関係の書籍を扱っている部署の人間で 本来は同じ建物の中にいてもあまり関わりはないのだが。 「ほんまに。こう見えてボク結構忙しいんよ?」 「ごめんってばー先生がどーしてもっていうからさぁ」 男はヘラヘラ笑いながらもカメラに齧り付くように バシバシとシャッターを切っている初老の男を顎でさした。 「気に入られてんじゃん?袖野っち」 「男にモテてもやなぁ…」 「えーでも結構良くね?星風ゆりえ」 縄で縛られたまま畳の上に横たえられている女性をニヤニヤしながら男は見ていて袖野は目を細めた。 彼女はよく取引している事務所が最近力を入れているタレントらしい。 確かドSキャラで売っているらしかったが どういう風の吹き回しなのだろうと逆に心配になってしまう。 「…まあおっぱいはめっちゃでかいな」 「だよなぁ〜? あんなのすぐ近くに置かれてたらちょっとはクラクラ〜っときちゃうんじゃないの?」 「そういう問題じゃないやろ…」 袖野は軽口を適当にいなしながら、 早く帰りたいなどと考えてしまうのだった。 「ゆりえちゃんでもダメかぁ 袖野っちのタイプがまじでわかんねー」 「はぁ?知ったとてやろそんなん…」 「だってさーあんな可愛い子達を縛り上げてんのに 毎回よう勃たんなと思うのよ。興奮しないわけ?」 「あのなぁーそれとこれとは別やで? 自分かて胸の一個や二個はもう物体やろ」 「物体って!ひでえー ちゃんと毎回エロい目で見てますう」 「うわぁサイッテー…」 何が悲しくておっさん同士で気色の悪い恋バナをせねばならんのかと 本気で帰りたくなる袖野であった。

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