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1-4 崖っぷちとボンクラ
確かに緊縛は趣味嗜好から発展したスキルではあったのだが
仕事は仕事である。
「袖野っちせっかく高身長イケメンなのに」
「なのにの意味がわからん」
「まあこっちからしたら袖野っちはありがたい人材だけどねー
色恋持ち込まない、エロい目で見ない、仕事ができるっていう」
「エロい目で見て仕事もできんキミはやばいやん」
「うるせえやい」
大変すぎる仕事も相まっているのかもしれないが
正直あまり恋愛だのは考えていないし、
どちらかといえば諦めていて、どこか遠ざけている節もあった。
それゆえにこのような仕事も出来ているといっても過言ではなかった。
「てか終わったらどーする?打ち上げあるけど」
「いや戻らな…この後新年度の飲み会あるんよ…
先生方も来るし遅れたらあかんからな」
袖野は腕時計に目を落としながら苦笑した。
変態と大変態が集う会など
後半はほとんど悪ふざけになっていく恒例行事で大変気が乗らなかったが
そんなこと言う権限はありはしないのだ。
ただでさえやりたくもないことをやらされていて神経はすり減っている気がするのだが
仕事とはこういうものだろうという嫌な大人になる事で保っている。
自分の欲求に素直に生きる、
そんな偉業を成し遂げている人間は確かにこの界隈には沢山居るのだろうけど
それこそ”偉業“であり、自分のようなものは
なんとなく辻褄を合わせて繕って生きていくほかないと諦めている。
別にそれでいいとも思っているし、
そういう人生を悲観的に見ているわけでもない。
ただ、今世はたまたまこういう人間として
社会の歯車1として生きていくのだろうと
信じているだけにすぎないのだ。
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