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1-6 崖っぷちとボンクラ

早く行かないとまた余計に怒られてしまう。 どうしてこう上手くいかないのだろう。 もう一度大きなため息をついた。 「ね…ねえ……」 不意に声が聞こえミナミは顔を上げた。 丁度街灯の下に1人の男が立っていた。 黒くてやたら裾の長いコートを羽織っている男だった。 マスクをしていて瓶底のメガネをかけている。 ミナミは渡りに船だと思い笑顔を浮かべた。 「すみません!道に迷っちゃったんですけど…」 男に近付くと、やたら荒い呼吸を繰り返していて 風邪でも引いているのかと心配になった。 「大丈夫っすか?」 ミナミは心配して小首を傾げた。 男ははあはあ呼吸をしながらミナミに顔を近付けた。 「み、見せ合いっこしよう…」 「はい?」 「オジサンと見せ合いっこしよう…!」 男の言葉の難易度が高すぎてミナミは理解出来なかった。 暫く首を傾げていたがやがて思い至り、 ああ!と笑顔を浮かべる。 「これなんすけど、ここに行きたいんすよねえ」 地図のことだと思ったミナミは携帯端末の画面を上向きにして男に見せた。 きっと自分の正確な地図と見比べてみようという意味だろうと勝手に解釈して話を進める。 男は黙っていた。 「…あれ?もしかしておじさんも迷ってたとかですか?」 反応のない男にミナミはまた心配になり聞いてみた。 確かにおじさんは人生という名の道を確実に迷っている。 しかしミナミは寡黙な人だなとしか思わなかったのであった。 「おーいおじさぁん… 早く行かないとマジでやばいんで助けて欲しいんすけど…」 ミナミが懇願すると男は暫く画面を見つめ、 やがてすっと道の先を指さした。 「あっちに行けばいいんすね!? ありがとうございまぁっす!助かったぁ」 ミナミはパァッと笑顔を浮かべぺこりと頭を下げてそちらに向かって歩き出した。 親切な人に出会ってラッキーであった。 世の中まだ捨てたもんじゃないね親切な人もいるもんだね。 SNSでそう呟きながらミナミは赤いお屋根の鬼課長宅へと向かった。

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