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1-11 課長さんは気苦労が絶えない!

そんな2人の文字通りの馬鹿騒ぎの一部始終を 聞いてしまった裾川とヨコは食堂から立ち去り 逃げるように喫煙所に飛び込んだ。 ヨコは深い溜息を零し、それを宥めるように裾川はライターを差し出した。 「全く…あいつはどこまで本気なんだ…?」 裾川はヨコの煙草に火を付けてやり、次いで自分のにも火を付けた。 ヨコは煙を吐き出しながら壁に背を預ける。 「ミナミくんって変わった恋するよねえ。 前は掃除のおばちゃんだっけ?」 裾川はそう言い思い出し笑いをしていた。 ちょっと前のミナミの恋は会社の掃除を担当する50代はかたいと思われる女性であった。 なんでも『鳥の巣みたいな寝癖ねえ』と言われてズッキュンときたらしい。 ツボがよくわからないとはいえ、 ヨコはまあ個人の自由だけどと苦笑したが裾川は容赦なく大爆笑していた。 「俺は真壁さんの彼女が気になりますケド」 灰を落としながら裾川はニコッとヨコを見て笑った。 ヨコはどう答えていいか分からず、あー…、と唸るのであった。 不意に喫煙所のドアを叩かれ2人はそちらを見た。 ガラス戸の向こうに凄まじい血相のミナミが立っている。 「おーきたきた」 裾川は面白がって笑った。 ミナミはドアを開けて中に入ってくる。 「真壁課長お願いが」 「断る」 ヨコは即答した。 しかしミナミはここでめげるような男ではない。 ずいとヨコに顔を近付けてくる。 「あの子の連絡先が知りたいんです」 「断る」 ヨコは譲らずふーっと彼の顔に煙を吐いてやった。 ミナミは涙目になって瞬きをしたが引かなかった。

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