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1-19 関係ない!
窓の外をぼんやり眺めていたが、カーブで揺れて危ないので
座席の前のつり革に掴まるべく移動した。
座席には50代くらいのスーツ姿のおっさんが目を閉じて座っていた。
おっさんの頭部を見ていても仕方ないので袖野は別の方を見ようと顔を動かした。
「……ん?」
扉の付近に見知った顔が見え袖野は細い目をさらに細めた。
スーツをだらしなく着こなし、茶色い髪は寝癖でボサボサで
ぼけっと口を半開きにして窓の外を眺めているその横顔は紛れもなく、ミナミであった。
飲み会でふざけて着せられたチャイナ服姿の自分を
女と思い込んだところか一目惚れした上に
男と分かってもなお好きだと告白をしてきた猛者であった。
声を掛けようかどうしようかと迷ったが、
告白をやんわり断ったのに全く気付いてもらえなかったし
正直どうしたものかとは思っていた。
見なかったふりをしようかと彼の横顔を眺めていると、なんだか違和感を感じる。
ミナミ自身は至って普通だがその後ろの男がやたらと彼にくっついているのだ。
体操服みたいなジャージ姿の太った男は
八百屋みたいな帽子を被っていて、電車が揺れるたびにミナミの背中に腹が当たっていた。
いくら混んでるといえどあの密着度はおかしくないだろうか。
「…まさか」
袖野は片手で自分の口を塞いだ。
毎日のように官能小説を読んでいるため思考が勝手にそういう卑猥な方へと向かってしまう。
いや、だがここは現実である。
まさかこんな朝っぱらからよりにもよって…。
と思ったが何故かそちらに近づいていく自分がいた。
いやいやないないと思いながらも探るように男の手元を見る。
何か鞄のようなもので隠れていたが
背の高い袖野は少し爪先立ちをすれば上から観察ができた。
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