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1-25 齟齬と真意は戀愛なりや?

オレやっぱ好きだなと再びさらっと告白をされてから ミナミのことが頭の中を駆け巡る感覚が日に何度もあった。 この歳になって、今更若い時のような恋だのなんだのってはしゃぐ気力さえないというのに。 それにもう、自分は仕事に生きると決めているのだ。 「…はぁ」 袖野はため息をつきながら、 画面に表示された変態が書いた官能小説の新作原稿を眺める。 ミナミの笑顔が過って全く内容が頭に入ってこないため 何度も同じ文章を行ったり来たりしている。 「大丈夫ですか?袖野先輩」 袖野は画面から顔を上げると、後輩の上江が心配そうに見下ろしている。 彼は数々の編集を入院に追いやった 破天荒大物作家會下詠慈に永久担当指名をされた社長賞的編集者である。 「…ボクもうダメかも」 「珍しいですね、先輩がそんなこと言うだなんて」 上江は眼鏡をかけ直す。 言葉とは裏腹に表情は全く変わらない。 「まあそれはどうでもいいんで、チェックお願いしてもいいですか」 「本当容赦無いねカミエちゃん…」 上江から渡された書類がずしりと腕に圧をかけてきて、ため息がこぼれてしまう。 「……カミエちゃんはさあ最近恋してる?」 彼の性格を現した几帳面な書類に目を通しながら何気なく聞いてみた。 ふざけないでください、と氷のような瞳で見下ろされるだろうが。 しかしいつまでも返事が返ってこない。

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